クラウドネイティブ戦略構築に不可欠な5つのステップ
Storage Magazine 2021年8月号より
Scott Sinclair
コンテナストレージは、そのパフォーマンスと移植性の高さのおかげで主流の座をつかんだ。クラウドネイティブの包括的な戦略を用いて、この技術を最大限に活用しよう。
デジタルビジネスと言われるものは、何がデジタルなのだろうか? ここ数年、多くの業界の専門家やメディアが、データは新たな鉱脈であるとして、デジタルトランスフォーメーションの興隆を賞賛してきた。より効果的かつ効率的なデータの使用は、ビジネスにおける優れた成果、運用効率化、顧客とのより良い信頼関係、さらには新たな市場を切り開く機会をもたらすことが多い。
そう、データは信じられないほど貴重なビジネス資産なのだ。もちろん企業はこれまで何十年もの間、何らかの形でデータを意思決定のために使ってきた。しかし、デジタルビジネスにおけるデジタルとは、単にデータを使用する能力ではない。デジタルとは、意思決定のためにデータを分析し、次にその決定を迅速に(できれば競争相手よりずっと早く)実行する能力のことだ。
現在のDevOps環境ほど、データの重要性と実行速度が緊密に結びついている場所は、そうないだろう。特に、クラウドネイティブとコンテナ・ベースのアプリケーション開発とKubernetesを使った環境ではそれが顕著だ。
まず初めに、クラウドネイティブとコンテナ・ベースのアプリケーション、およびDevOpsによる成功について理解することが重要である。2019年に、コンテナを使っている、または1年以内に本番のアプリケーションでコンテナを使う予定がある企業のITプロフェッショナルを対象に調査したEnterprise Strategy Group (ESG)のレポートは、以下の調査結果を述べている。
- 53%が、彼らがコンテナに興味を持った、あるいは導入したきっかけはDevOpsの実施方法に対する興味だったと回答
- コンテナ技術のメリットについて、回答の上位3つは以下の通り。
◆ 優れたアプリケーション・パフォーマンス(50%)
◆ ソフトウェア品質の向上(45%)
◆ アプリケーションの移植性の改善(45%)
このようにコンテナ導入とアプリケーション開発の成功は関連している。ITの意思決定者がコンテナはVMではない、と理解しておくのが必須なのは、これがひとつの大きな理由だ。
こう考えてみてもらいたい。VMが普及した時、そのメリットはもっぱらIT中心だった。例えば、基盤使用の増大を実現するとともに、IT運用ワークフローの最適化が行われた。コンテナでは、アプリケーション開発の加速と改善もビジネスメリットとして挙げられる。最終的に、コンテナはスマートITアーキテクチャーによる意思決定と売上増大をつなぐ架け橋を作ることができるのだ。
このことは、我々にスピードとは何かを考え直す機会を与えてくれる。現代のビジネスの性質がデジタルであるがゆえに、技術を用いて競合から勝利を得るのは、強力であると同時に短命だ。本当の長期的な強みを獲得できるかどうかは、貴社の開発者が貴社の技術、サービス、ブランド力を、変化する顧客と市場ニーズにいかに巧みにかつ早く適応できるかにかかっている。
貴社のコンテナ・サポートの方法が、ITがコンテナとクラウドネイティブ・アプリケーションをサポートする意味にのみ限定しているのであれば、貴社は不利益を被るだろう。コンテナで、基盤のサポートを行うのみでは、上述したアプリケーション開発のメリットを獲得するには不十分だ。ITの意思決定者は、コンテナをサポートするためだけでなく、より広範なクラウドネイティブ戦略を構築するために、開発チームと協業する必要がある。
コンテナの価値をいかに最大化するか
それでは、コンテナ技術の価値を最大化するには、コンテナに関連するIT戦略をどのように構築すればよいのか? ここに5つのアドバイスを挙げる。
- 単なるコンテナやKubernetesのサポートを超えた広範なクラウドネイティブ戦略の必要性を理解する
コンテナ導入のメリットを十分に享受するために、ハードウェアやソフトウェア以外のものが必要になるだろう。特に、貴社におけるビジネスダイナミクス(訳注:問題の発見・把握を通して認識されるビジネスの動的構造)と内部プロセスを分析し、おそらく再考する必要が出てくるだろう。貴社の開発チームがリソースについてどのように要求を出してくるのか理解するように努め、次に出来るだけ開発工程の迅速化と自動化を行うこと。 - 開発者に最大限の管理権限と自由を与えるように環境を設計しつつ、業務とデータを保護する
開発チームにできる限りの自由を与えるには、IT管理者がデータの保護とセキュリティをどのように継続的に確保するかを含め、事前に自社のデータ環境を理解しておく必要がある。コンテナは移植できるように作られているが、データは往々にしてそれができない。このような状況によって、DataOps技法の普及とDataOpsに精通した人員の確保がブームになっている。データに対するインサイトとデータの置き場所についての助言を提供してくれる技術とツールを探すことだ。サービスも、データ配置と保護を提供するものを使うべきだ。
- 複数ロケーション間のパフォーマンス、拡張性、整合性をモダナイズする
コンテナは移植されることを前提に設計されている。しかし、その移植性を活用するためには、複数の環境間の整合性が必要になる。ESGの調査によれば、意思決定者の70%が自社のコンテナ・ベースのアプリケーションがパブリッククラウドと自社のデータセンター双方にデプロイされている、またはデプロイされる予定だと回答した。
データストレージにとって、貴社のストレージシステムがコンテナストレージインターフェイス(CSI:Container Storage Interface)ドライバーをサポートしていることを確認するだけでは不十分になるだろう。複数の環境(パブリッククラウド、データセンター、エッジロケーション)間で同一の機能を提供する技術を探そう。
さらに基盤サービスは、従来型のアプリケーションよりも、データアクセスだけでなくストレージサービスについても、ずっと高いパフォーマンス・レベルを要求することが多い。100あるいは1,000のマイクロサービスをスピンアップ、スピンダウンするとき、ストレージシステムがこの要求に対応できるのかを確認する必要がある。 - 的を絞り、達成可能なプロジェクトから始める
コンテナでプロジェクトを始めるのであれば、達成可能な目標を選択しよう。コンテナの技術は、様々なタイプのアプリケーションにメリットをもたらす。達成するのに丁度よい大きさ、且つ貴社の他のプロジェクトでの導入を促進するために、社内のお手本として使われる位の大きさのプロジェクトから始めよう。 - 測定し、改善し、反復する
クラウドネイティブ・コンテナを使ったプロジェクトの目標は、単なる新技術のデプロイメントではなく、ビジネストランスフォーメーションを推進するものだ、ということを忘れないようにしよう。プロジェクト開始前に、貴社の目標を明確にし、それが測定できることを確認しよう。クラウドネイティブ戦略をデプロイしながら、改善点を観察しよう。あらゆる失敗や中断を調査・分析し、常に新たな教訓を見出し、改善に努めよう。
コンテナ技術とKubernetesは、真にビジネストランスフォーメーションを推進する様々なメリットを提供できる。しかし、それを行うためにIT部門は自社の業務が、開発活動を加速する形で移植性や拡張性のメリットを享受できるかを確認しなければならない。これは、単なるコンテナやKubernetesの対応が求められるだけには留まらない。それらの周辺にあるプロセスの改善とメリットの両方が実現されているかを、ITの意思決定者が確認することが求められるのだ。
著者略歴:Scott Sinclairは、Tech Targetの一部門ESGのシニア・アナリスト。
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