エッジコンピューティング用ストレージはIoTの次なるフロンティア
Storage Magazine 2021年8月号より
Rich Castagna
IoTのエッジデバイスはどんどん賢くなっており、やがて機械学習やその他のAI処理のためのローカル・ストレージが必要になってくるだろう。エッジコンピューティング用ストレージという課題に対し、ストレージ業界の準備は整っているのだろうか?
ネットワークストレージの歴史は、アコーディオンの蛇腹の様に進行する。グーンと伸びきった後はギューッと縮まる。
ネットワークでつながったストレージに、「あ、そうなのか、やったー!」と思われる瞬間が初めて訪れた。それはシステム管理者が、データセンター中に蔓延って得体のしれないことをしているサーバーストレージを囲い込むことができる、と気付いた時だった。システム管理者は、この時初めてストレージに対してわずかながらでもコントロール(とセキュリティ)を行えるようになったのだ。
しかし、「あ、そうなのか、やったー!」が「えーっ、ダメじゃん」に変わるのにそう長い時間はかからなかった。中央一元化したストレージ・リソースが管理を上回る勢いで増大したからだ。このリソースの増大によって、管理手法は二転三転し、バックアップ運用は破綻、そして早期退職の計画は前倒しされた。しかし、その答えはもちろん、すべてのストレージ容量の中央一元化をやめて管理しやすい小さなかたまりにすることだった。
かたまりが多くなりすぎたら?そのときは、かたまりを集約してアコーディオンを奏でるようにストレージを運用すればいい。この方式は何十年もの間有効だったように思えるが、21世紀のコンピューティングは奏でるのがはるかに難しい。状況を大きく変えたのはIoTだ。IoTは毎年何十億個もの「モノ」を増やし、あらゆる業種の企業のデジタル化にとって不可欠な要素となった。
IoTは従来のITの風景を一変させた
IoTの目覚ましい成長によって、多くの企業は従来のITについての考え方を見直し始めている。何億兆もの機器がIoTネットワークに追加されるのだから、ネットワークの末端で実行される処理のニーズが増大するのは、火を見るより明らかだ。エッジコンピューティングは、中央一元化されたコンピュート・リソースの負荷を軽減してくれるが、さらに重要なのは、データを行ったり来たりさせることによって発生するレイテンシが抑えられることだ。
あなたが、これは巨大なIT予算を持った巨大企業特有の問題だと思っているのなら、考え直してほしい。Microsoftが2020年10月に出した「IoT Signalsレポート」にはこう書かれている。「我々が話をした世界中のIoT意思決定者のうち、91%が2020年中にIoTを導入しており(前回調査では85%)、10社の内8社で最低でも1つのプロジェクトが実行フェーズに入っている。」
これはエッジにとっては大きなプレッシャーだ。しかし、そこで実現できることには、ほぼ無限の広がりが期待できるので、救いもある。Microsoftがレポートで述べているように、「AIは最も広範に導入されている新興の技術だ。79%の企業が自社のIoTソリューションの一部にAIを導入している。」
エッジコンピューティング用ストレージ
極度に分散化されたIoTの環境は、ITにとっての悪夢になりつつある。あらゆるエッジコンピューティングでは、膨大な数のセンサー、アクチュエータ、その他の機器にAI機能を付加するTiny Machine Learning (TinyML)チップの直近の場所に、学習用のデータが保存されている必要がある。2021年のABI研究所による白書「TinyML:Next Big Opportunity in Tech(訳:技術革新の次の大チャンス)」は、「TinyMLの市場は、2020年の出荷数1,520万個から2030年には25億個へと成長するだろう。」と予測する。ものすごい数のAI処理だ。
この処理をするための数百、あるいは数千ものVMやストレージの代わりとなるのは、ローカル・ストレージを必要とする数万から数十万のIoTエッジである。これは、徹底的な分散化だ。
多くのIoT環境において、管理者はエッジコンピューティングにストレージを供給するためにクラウドを使っているが、コンピューティングへの要求が高くなるにつれ、クラウド・ストレージのレイテンシが問題になってきた。
ストレージ・ベンダー達よ。今こそ全力でネットワークストレージに関する全ての専門的知識をエッジコンピューティング用ストレージに活用すべき時だ。「勇敢に行く、どのストレージ・ベンダーも行ったことのないところへ。*訳注1」(まぁ、スタートレックのストレージ・ベンダーとは世間では言わないが、要するにあの感じだ。)
訳注1:これはTVシリーズ『スタートレック』の冒頭で語られる台詞「勇敢に行く、誰も行ったことのないところへ。」のパロディ。
エッジストレージは手強いかも知れない
高パフォーマンスのストレージを数千カ所(あるいは数百万カ所)に設置し、その全てを管理するのは、極めて困難な要求だ。
そもそも、ひとつのIoTのシステムはエッジの部分に、何十あるいは何百もの異なる種類の機器を装備していることがある。個々の機器の通信方式も異なっている可能性がある。通信方式はストレージ世界にはなじみのない、MQ Telemetry Transport (MQTT)、Advanced Message Queuing Protocol (AMQP)、4G、5G / LTEといったプロトコル、あるいは様々な近距離無線通信のプロトコルが使われる。
エッジデバイスに組み込まれるプロセッサーも、おそらく変化するだろう。これはストレージがRaspberry Pi*訳注2にアクセスする方法とBanana Pi*訳注3 やOnion Omega2*訳注4にアクセスする方法が違うかも知れない、と言うことだ。
*訳注2:イギリスのラズベリーパイ財団によって教育目的で開発されたシングルボードコンピューター。
*訳注3:Raspberry Piの成功にあやかって作られた64ビット対応のシングルボードコンピューター。
*訳注4:Onion社が開発したシングルボードコンピューター。「世界最小のLinuxサーバー」と宣伝された。
電源も問題になるかも知れない。エッジでディスクを回すわけではないが、個々の半導体が食う電気の量がいくら慎ましいとはいえ、何千ものエッジ機器が集積されれば大食漢のようになるかも知れない。
現在、ほとんどのエッジコンピューティングはSDまたはmicroSDフォーマットで売られている。これらのフォーマットは、大きな容量と現時点ではAIの仕事をこなすのに十分な高速性を提供している。いずれ現在のものより、安価で且つ高速、さらには消費電力の少ない半導体ストレージの新しいフォーマットが、出てくることだろう。
エッジストレージのハードウェアの面では、問題は解決済みの様に見えるが、処理とストレージの速度について行く必要があるファームウェアとソフトウェアは、さらなる開発が必要になるだろう。最大の課題は、あらゆるストレージを管理することだろう。巨大な容量について悩むことはないだろうが、企業が設定と保護とバックアップをしなければならない、一つ一つの機器がこれだけ数多くある状況で、IoTエッジストレージ環境を管理するのは容易ではないだろう。そして、エッジデバイスからクラウドサービスやデータセンターにデータを移行することは、衝撃的なデータ・トラフィックの増大をもたらすかも知れない。
著者略歴:Rich Castagnaは、ハイテク・ジャーナリズムの世界に20年以上関わってきたベテラン・ライター。
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