新型コロナウイルスの影響を受ける
2021年のエンタープライズ技術動向(前編)
Storage Magazine 2021年2月号より
Alan R. Earls
今年流行りそうな、IT基盤、ストレージ関連ソフトウェア、ハードウェア、サービスについて、さらにコロナ禍がそれらにどのような影響を与えているのかを見ていこう。
我々は、専門家、アナリスト、業界の情報通とコンタクトを取り、2021年のエンタープライズ技術動向と、新型コロナウイルスが技術の分野全体にどのような影響を及ぼしているのかについて、彼らの見解を読者に伝えるべく、インタビューを行った。
我々が話をした一線級の専門家や情報通の人々が、以下の技術について何を伝えたかったのか、記事を読み進んで見つけてもらいたい。
- デジタライゼーション
- コンバージェンス
- レジリエンシ
- モダン・ストレージとマルチクラウド
- 汎用コンピューター用クラウドストレージ
- コンソリデーションと効率性
我々はまた、これらの技術の進歩が、エンタープライズIT全体にとって、(何よりも重要なのはあなたの会社にとって)何を意味し、あなたの会社がITの意思決定をする際どのような影響を与える可能性があるのかを見ていく。
デジタライゼーション
デジタライゼーションは、ここ数年ITとビジネスにおけるスーパー・バズワードだった。この技術は、広範な進化をもたらすと期待されている。その中にはストレージと基盤に関わることも多く含まれている。コンバージド・インフラストラクチャー(CI)、ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャー(HCI)、ディスアグリゲーテド・ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャー(DHCI)、コンポーザブル・ディスアグリゲーテド・インフラストラクチャー(CDI)などの支援技術や実現技術もこれに含まれる。
MarketsandMarketsの2020年6月のレポートによると、HCIの世界市場の規模は、2020年の78億ドルから、複合年間成長率28.1%という急激なペースで成長し、2025年には271億ドルになる見込みだと言う。同レポートの著者は、設備投資費、運営コストの低減やHCIが提供するDR機能の改善など、ハイパーコンバージェンスの利点がこの成長の要因だとしている。
広範な層をとらえるという点では、デジタライゼーションの話題は、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中、大きな注目を浴びた。「誰もがデジタライゼーションについて話しています。」とは、グローバル・オペレーションとテクノロジー・サービスのプロバイダー、iOPEXのCEO、Shiva Ramaniの言葉だ。
NetAppの企業戦略開発部門バイスプレジデントのAjit Dansinganiはこう語った。
「2020年に事業活動のあらゆる分野で3年から5年、デジタライゼーションが早まりました。特に、顧客、サプライヤー、社内業務に関連するITの分野でそれが顕著です。顧客へのデジタル・マーケティング、セールス、サポート機能の増加、リモート社員との協業ツールの質の向上もその中に含まれます。
デジタル・アクティビティの爆発的増加によって、保存、管理、移動、解析するデータがさらに増えました。データファブリック戦略は、企業がデータから得たインサイトを活用する上でなくてはならないものになるでしょう。」さらにまた、幾何級数的なデータの増加によって、ストレージ・コストに重点的に取り組む必要が出てくる。
結果として、「データ・ティアリングとオブジェクト・ストレージは、2021年さらなる注目を集めるでしょう」とDansinganiは語る。
ホットでないのは?
パンデミックはストレージの世界に変化を巻き起こし、いくつか予想外の事態が生まれている。以下は、ふたつの現場からの所見だ。
自動化は1年半前までは非常にホットだったが、「バンドエイドのように使われたので、今後はこれまでのようにホットではなくなると思う。」
-- Shiva Ramani、iOPEX Technologies社CEO
「データ保護に関連する古典的技術は、これまで毎年『ホットな技術』リストに載ってきました。ウィルスやランサムウェアという別の脅威の登場によって、これらの古典的技術はリストから外れたと考えられていました。しかし、多くの人々がリモートで働くようになり、多くのデータがエッジに出るようになって、ベーシックなデータ保護が帰ってきました。そのデータ保護が、ストレージ・セントリックだろうが、コンバージド・タイプだろうが、別に新しくもないし、ワクワクするようなものでもありません。しかし、人々はそこにお金を使うことになるでしょう。」
--Greg Schulz、StorageIO社創業者兼シニア・アナリスト
基盤の柔軟性とハイブリッド・クラウドの弾力性は、今後も重要であり続けるだろう。従ってITの購買者は、自社のデータセンターをクラウド化し、ハイブリッド基盤の管理を簡素化するために、クラウドレディでクラウドケイパブルなコンピュートとストレージを探し続けることになるだろう、とDansinganiは語る。
しかし、クラウド基盤の導入を急ぐあまり、「多くの企業が自社のクラウド・フットプリントの最適化や、クラウド支出の中の無駄を減らす実践ができていません。」と彼は言う。それゆえに、クラウド費用の管理は重点分野になるだろう。
Dansinganiが予測するその他の動向(トレンド)は、(特に2ティアアーキテクチャー・アプリに依存する環境での)仮想デスクトップへの注力増大と、ワークフロー改善のための、より質の高いコミュニケーションと協業のツールの使用だ。また、「ソフトフォンが恒久的に物理的な卓上電話と置き換わるかもしれません。」
デジタル・フューチャーは2020年、多くのIT企業にとって「突然やって来た」が、彼らは過去の技術、アーキテクチャー、運用モデルを限界まで推し進めながら、ビジネスを継続するために休むことなく働いてきた。「今後のことを考える時、デジタル・トランスフォーメーションとデータセンター・モダナイゼーションは、2021年になっても主要なテーマであり続けるでしょう。何よりも、多少規模は小さくなっても、2020年に我々が経験した数々の変化が継続する可能性が高そうなので。」とDansinganiは語る。
コンバージェンス
MarketsandMarketsのレポートはまた、データセンター・コンソリデーションが、今後数年にわたるHCI市場の成長に最も貢献するだろうと指摘する。これは、HCIには、重複排除や圧縮などデータセンター基盤におけるハードウェア要件全体の縮小を支援するデータ削減機能が組み込まれているからだ。同時に、この記事の著者たちは、HCIによって、バックアップ・ソフトウェアや重複排除アプライアンス、そしてSSDアレイさえも別々に持つ必要性が減ると述べている。
その他HCIの普及を促す要因としては、基盤の更改、コスト最適化プロジェクト、そして何よりもオンプレミスのデータセンター・コンソリデーションへの取り組みが挙げられる。これらの要因は、リンク先の記事で述べられているような2023年までのHCI市場の成長に大きな影響を与えるものと思われる。
中小企業向けのHCI市場も注目を集めるだろう。これらの企業は、資金、技術、拡張性に関して、重要な難題に直面している。これらの難題を克服するために、中小の企業は従量課金モデルを採用する可能性が高い。このモデルは、実際の必要性に基づいてIT基盤を管理するための柔軟性を提供してくれるからだ。
それ以上に、中小企業は大企業との厳しい競争に晒されている。結果として、彼らはビジネス全体の生産性向上を支援してくれるHCIを採用していくことになるだろう。
DHCIとコンポーザブル・インフラストラクチャー
しばしばdHCIあるいはHCI 2.0と言及されることもあるディスアグリゲーテド・ハイパーコンバージド・インフラストラクチャー(DHCI)は、ハイパーコンバージド・システムの中のハードウェア・コンポーネントを分離する。それによって、標準的なハイパーコンバージド基盤のような融通の利かないシステムと違って、ユーザーは各リソース(例えば、コンピュート、ストレージ、ネットワーク)をそれぞれ他から独立して拡張できる。企業が必要なリソースにのみお金を払えるようにして、節約するという考えがベースになっている。例えば、あなたに必要なのがストレージの追加だけなのに、コンピュートとストレージが両方入っているノードを1台買うなどということは、これによって必要なくなる。
コンポーザブル・ディスアグリゲーテド・インフラストラクチャーは、コンバージド・インフラストラクチャーとInfrastructure as Code(IaC)付きハイパーコンバージェンスの技術を組み合わせたものだ。コンバージドと同じように、実態としてはラックスケール*訳注3であるコンポーザブル・インフラストラクチャーは、リソースを別々のプールに分離し、ユーザーがプログラムを書いて*訳注4、特定のワークロードの必要性に合わせてそのプールを仮想サーバーで一緒にできるようになっている。
*訳注3:ラック単位で、段階的に拡張していけるインフラのこと。
*訳注4:コンポーザブル・インフラストラクチャーでは、ユーザーがAPIを利用したプロビジョニングのプログラムを作ることができる。(コンバージェンス技術全般については、『コンバージド・データセンター技術の変遷:過去、現在、未来』参照。)
(後編に続く)
Alan R. Earlsは、ボストンを拠点としてビジネスと技術を中心とした記事を書くフリーランス・ライター。
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