HCIアプライアンスをワークロード要件に適応させる(後編)

Storage Magazine 5月号より
Robert Sheldon

ユースケースに基づいてHCIアプライアンスを評価する

IT関係者が最初にハイパーコンバージェンスに魅力を感じたユースケースは、仮想デスクトップ基盤(VDI)だった。VDIはリソース集約型とはいえ、各ハイパーコンバージド・ノードが決まった台数の仮想デスクトップをサポートできるので、拡張のタイミングが予測しやすい場合が多い。結果として、各ノードには同一のハードウェアがつながっているために、必要な時に要件を見積もったり、システムをスケールするのもこれまでより簡単にできる。さらに、ハイパーコンバージド・ノードにはコンピュートおよびストレージ両方のリソースが入っているため、分散ストレージに関連するオーバーヘッドが除去され、結果的にデスクトップのパフォーマンスが向上する。特に、フラッシュストレージの登場によってパフォーマンスはより一層向上した。

ベンダーの評判

HCIアプライアンスを購入する際、あなたはベンダーが提供する製品情報を頼ることになる。残念ながら多くの場合、製品情報の内容を決定しているのはマーケティング・チームである。また、製品の仕様さえも、的確な判断を下すのに必要な全体像を必ずしも提供しているとは限らない。このような事情があるので、製品とベンダーの情報を集める時は、他の情報源にもあたった方がよい。

手始めは、製品とベンダーを議論している製品レビュー、フォーラム、SNS、ニュース記事などのリソースがいいだろう。ユーザーが何と言っているか、よく見ておこう。かれらは、どれほど製品に満足しているのか。どんなトラブルを経験したか。問題はどの程度効率的に解決できたか?

ハイパーバイザ、プロセッサ、ストレージ・デバイスなど、HCIアプライアンス製品を作り上げているハードウェアおよびソフトウェア・コンポーネントを調査してみよう。これらのコンポーネントはHCIアプライアンス以外の用途でも使われていることが多いので、これらの個々の部品を詳しく調べてみると色々なことが分かってくるだろう。また、アプライアンスやそのコンポーネントが、SAP HANAのような特定のソフトウェアで認証されているか、そして特定のワークロード用にベンチマークが実行されているかどうかも確認した方が良い。

アプライアンスの調査は徹底的にやろう。そのベンダーの製品はこれまで世間でどう言われてきたか、またそのベンダーそのものはどうか?そのベンダーが会社として(顧客満足度、顧客忠誠心も含め)どういう評判を得ているか、世間がそのベンダーの製品やサービスを勧める度合いはどうか?サポート・サービスに関するユーザーのフィードバックはよく聞いておこう。さらには、ベンダーの現在および過去の社員が、その会社で働くことについて何と言っているのか、情報を探してみよう。

アプライアンスを評価する時は、短期・長期両方の観点から検討する必要がある。ベンダーは製品ロードマップを提供しているのか?ベンダーは、HCIアプライアンスのラインナップにコミットしているか?もちろん、ベンダーの財務の健全性を確認するのを忘れてはならない。現在市場に出ているHCIアプライアンスから、あなたは多くのものを享受できるかも知れない。ただし、その製品が拡張できない、またはアップグレードできない、あるいは1年後にはサポートが切れる、などのことが起きるようでは、ほとんど良いことがなくなる。

VDIは有効性が見事に実証されたユースケースなので、多くのベンダーがVDIワークロードをサポートする製品を販売している。例えば、Dell EMCは、vCenterやvSANなどのVMwareの技術をベースとし、VMware Cloud Foundation SDDC Managerと完全な連携をするHCIアプライアンスのVxRailラインを提供している。VxRailラインには、グラフィックの負荷の高いデスクトップとワークロード用にGPUハードウェアを搭載してVDIに最適化したプラットフォームであるVシリーズが含まれている。

一部の企業は、バックアップあるいはディザスタ・リカバリ(DR)用途としてハイパーコンバージェンスに注目している。HCIの強固に統合された基盤と基層となっている仮想化によって、インスタントVMリカバリが可能なため、バックアップやDRのシナリオへの適性が高い。これらのユースケースをサポートするHCIアプライアンスは、VDIやその他のワークロード向けのアプライアンスで見かけるものより大きなストレージ容量を持っていることが多い。

Nutanix Enterprise CloudプラットフォームをベースとしたHCIアプライアンスは、バックアップやDRのユースケースに対応できる。このプラットフォームにはネイティブのハイパーコンバージド・データファブリックと連携するNutanix Mineが入っており、インテリジェント・ティアリングとアドバンスト・データ・リダクション機能を提供する。Dell EMC、富士通、Hewlett Packard Enterprise (HPE)、IBM、Inspur、Lenovoなど、多くのベンダーがNutanix Enterprise CloudプラットフォームをベースとしたHCIアプライアンスを提供している。一例をあげると、Lenovo ThinkAgile HX シリーズは、HDDストレージを12TBまでサポートし、プロセッサが1つだけのアプライアンスが入っている。

もうひとつのハイパーコンバージェンスのユースケースは、遠隔オフィス/支店(Remote Office/Branch Office: ROBO)である。ROBOは、しばしばエッジコンピューティングと呼ばれることもある。ライトサイジング(訳注 :企業がIT基盤、ネットワーク、ストレージ、データセンター、ハードウェアなどから最大限の価値を得るために行う再構築や再編成のプロセス)が保証され、保守およびスケールが容易にできるシステムを実装することは、あらゆるエッジ開発において重要である。HCIアプライアンスは、エッジコンピューティングのユースケースに適していると言える。従来のシステムよりデプロイと保守が容易で、遠隔での管理が可能な場合が多いからだ。さらに、エッジのシナリオでは、通常大容量のストレージは不要であり、ワークロードによっては、より小規模なクラスターもサポートできる。

数多くのベンダーが、ROBO環境にターゲットを絞ったHCIアプライアンスを提供している。例えばDell EMC は、2ノードまたは3ノードのクラスターから始められるVxRail Gシリーズを販売している。もう一つの例は、Cisco Unified Computing System をベースにエンジニアリングされたアプライアンスのライン、Cisco HyperFlexラインである。Ciscoはこれらのアプライアンスを、オールフラッシュまたはハイブリッドのストレージ構成で提供している。HyperFlexラインには、ROBO環境をターゲットにしたEdgeシリーズが入っている。Edgeアプライアンスはエントリレベルのハイパーコンバージド製品で、WAN経由の接続性を管理するソフトウェア定義の広域ネットワーク製品、Cisco SD-WANとの連携機能を持っている。

ユースケースに基づいてHCIアプライアンスを評価する

HCIアプライアンスがより柔軟且つ包括的、インテリジェントになるにつれて、様々なワークロードに対応できるようになった。例えばITチームは現在、自社のプライベートおよびハイブリッド・クラウド基盤の実装先としてハイパーコンバージェンスに注目している。企業は、クラウド・コンピューティングの使用に往々にしてついて回る複雑さに煩わされることなく、クラウドサービスの柔軟性と自動化を得られる。良いHCIアプライアンスは、デプロイメントと保守を容易にしつつ、クラウドコンピューティング・モデルに対応するのに必要な仮想リソースを提供してくれる。

今まで以上に多くのベンダーが、クラウドとの親和性が高いHCI製品の重要性を認識し始めた。NetApp HCIには、マルチクラウドのアジリティと拡張性を、プライベート・クラウド基盤とハイブリッド・クラウド基盤に提供する技術が組み込まれている。このプラットフォームには、NetApp Kubernetes Service、NetApp Cloud Volumes Service、NetApp Cloud Insightsが組み込まれており、ユーザーがコンピュート・リソースとストレージ・リソースを別々にスケールできることで、様々な種類のアプリケーションをホストできる、完全な形のクラウド・エコシステムを提供している。

現在のHCIアプライアンスはまた、ビジネスを行う上で欠かせないデータベース管理システム(DBMS)やERP、その他のアプリケーションの扱いも巧みになってきている。これらのワークロードに対応するために、アプライアンスは高いIOPSとネットワーク・スループットを提供する必要がある。また、個々のワークロード要件を満たすべく、アプリケーションに、正しくバランスがとれたコンピュートとストレージのリソースも提供しなければならない。それと同時に、アプライアンスの信頼性は非常に高くなければならないし、且つ高い可用性が保証されていなければならない。

数多くのベンダーが、これらの課題に対応した技術を持ったハイパーコンバージド製品を提供している。Dell EMCは、パフォーマンスが要求されるワークロードにVxRail Pシリーズを提供しており、VMwareはvSANにフォールト・トレランスと先進的可用性を組み込んでいる。Nutanix Acropolisは、先進的ストレージ機能に対応したMapReduce技術を内蔵し、Cisco HyperFlexは、幅広い基幹業務系のワークロードに対応すべくオールNVMeのノードを追加した。

HPE SimpliVityは、これらのワークロードをターゲットとしている、もうひとつのHCIアプライアンスの製品ラインだ。必要なパフォーマンスと容量を提供するだけでなく、これらのアプライアンスには、バックアップ、DR、重複排除、圧縮、ネットワーク最適化、オールフラッシュ・ストレージなどの機能が提供されている。SimpliVity製品を裏で支えているのは、AI技術と予測分析を組み込み、ユーザーのシステムを最適化し問題の発生を予防的に回避する、クラウド・ベースの分析サービス、HPE InfoSightである。

これら以外に、企業がHCIを利用したいと考えているのは、ビッグデータ、AI、機械学習、ディープラーニング、予測分析、その他先進的ワークロードである。例えばPivot3は、ユーザーがコンピュート・リソースとストレージ・リソースを別々にスケール可能にすることで、これらのワークロードにより上手く対応する、オールフラッシュでNVMeベースのアプライアンスを提供している。このアプライアンスは、無停止オペレーションを提供するために、効率性、パフォーマンス、データ保護を組み合わせた特許取得のイレージャー・コーディング処理を組み込んでいる。

一部の企業は、開発とテスト作業のためにHCIアプライアンスに注目している。ハイパーコンバージド・システムの中心には仮想化が存在しているため、開発作業中に変動する要件に対応してVMを立ち上げるのが容易なのだ。同時に、現在のHCIアプライアンスは、これまでよりも多くの種類のワークロードを捌くことができ、ユーザーは様々なワークロードのために複数のシステムをデプロイする複雑さに煩わされずに、広範なアプリケーション環境を構築することが可能になった。

ニーズに合った調査をしよう

最適なHCIアプライアンスを選択するのは、たやすい事ではない。各製品の機能、およびそのHCIが期待したワークロード処理が出来るのかを理解しなければならない。複数の種類のワークロードをHCIに移行しようと計画しているのであれば、様々なベンダーのアプライアンス製品が必要になるかも知れない。一製品が、貴社のニーズ全てを満たしてくれると考えてはならない。

最近になってベンダーは、特定のユースケースに最適化したHCI製品を提供し始めた。そのため、それらの製品の相違点に注意を払う必要がある。大事なのは、選んだアプライアンスが貴社のワークロード要件を満たすことであって、その逆ではないということをよくよく理解しておくことだ。そうしてこそ初めて、HCIが貴社にもたらすメリットを最大化できることだろう。

(完)

著者略歴:Robert Sheldonは、技術コンサルタント兼フリーの技術ライター。彼はまた、ebookの出版の仕方を解説したEbook Nowの著者でもある。

 

 

 

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