2019年クラウドのキーワード
オンプレ回帰、ハイブリッド、マルチクラウド
ハイブリッドクラウドの興隆とパブリッククラウドのワークロードを自社のプライベートクラウドに戻す動きは、マルチクラウド化に向かう2019年の2大潮流だ。
Storage Magazine 5月号より
著者:Jon William Toigo
編集者より:これは、長年にわたってStorage MagazineとTechTargetの寄稿者であったJon Toigoが去る2月59歳で自然死により亡くなる前に、我々のために執筆した最後のコラムの一つである。彼の生涯と経歴については、このコラムの後半にある囲み記事「Jon Toigoを偲ぶ」をお読み頂きたい。
ストレージはクラウドが最初に提供したサービスの一つだった。第一段階では汎用コンテンツの配信に注力し、次にファイルシェアリングやモバイルデバイスの容量拡張へとシフトしていった。今日(こんにち)ストレージ関連のサービスは、バックアップとアーカイブ用データレポジトリからクラウドベースのアプリケーションや仮想マシンをサポートする複雑なストレージソリューションまで全域をカバーしている。
自社プライベートクラウドとは、民間の企業が、パブリッククラウド・プロバイダーが使っているのと同じ多くの技術を利用するためにオンプレミス(自社の敷地内)のデータセンターに作った基盤である。プライベートクラウドは、パブリッククラウド・ベースのアウトソーシング・サービスと同時並行して発展してきた。最近のアンケート調査によると、今日(こんにち)の企業のデータセンターでホスティングされているアプリケーション・ワークロードの75%がオンプレミスのプライベートクラウドで処理されている。2019年をリードするクラウドの動向の土台となるのは、プライベートクラウドである。
クラウドからの回帰
2018年後半に始まったことだが、アナリストたちがもう一つのトレンドをレポートするようになった。企業がパブリッククラウドにアウトソースしていたワークロードを自社のプライベートクラウドへと配分を変更するようになったのだ。
IDCは2018年のレポートでこの動向を取り上げて、クラウドからの回帰(cloud repatriation)という言葉を作り出した。このレポートによると、アンケートに回答したITプランナーの80%が2017年から2018年の間にワークロードをオンプレミスに戻していた。また、大部分がこれから先2年の間にパブリッククラウドのアプリケーションの半分をプライベートクラウドまたはオンプレミスの場所へ移すことを計画している。さらに、全面的にパブリッククラウドを使っている企業の75%が2020年までにプライベートクラウドも使う予定だという。
ワークロードをオンプレミスに戻す理由は様々だ。データを直接コントロールしたいという欲求から、ローカルホスティングのセキュリティ上のメリットに気付いたため、アプリとデータのプラットフォームを変えることによって期待される費用節約に魅力を感じたため、等々。最後の理由はもっとも一般的だ。パブリッククラウドは、その長年にわたるマーケティングや誇大な宣伝にもかかわらず、2019年のクラウド動向の中で、期待したほどオンプレミスよりも低コストの代替だとは証明されなかった、ということを示している
普及し始めたハイブリッドクラウド
オンプレミスとオフプレミスの基盤間でクラウドベースのワークロードを移動するのは、技術的に言うと新しい考えではない。大企業は決してパブリッククラウドを全面的に採用しなかった。企業のリーダー達は、金融、ERP(Enterprise Resource Planning)、ロジスティックス、CRM(Customer Relationship Management)、製造自動化、等々、長年使ってきた業務システムとミッションクリティカルなデータをアウトソーシングの業者に任せることは望まなかった。アナリスト達もクラウドへの嫌悪感を、データセンター内の分散サーバー上のワークロード仮想化についての体験と関連付けた。仮想化には、プラットフォーム費用の高騰、アプリケーション・パフォーマンスの低下という副作用が伴うが、クラウドもまさに同じだ、と言ったのである。その他のケースとして、時々SoR(Systems of Record)と呼ばれるレガシー・アプリケーションがあるが、複雑すぎて再プログラミングに相当のパワーをかけないと仮想化できない。
理由は何にせよ、ベンダーは多くのデータセンターにおいて仮想化-非仮想化の分極化に対応する、ゲートウェイからモジュラーシステムまでをカバーしつつハイブリッドのコンピューティングモデルが可能な、技術を創ろうとした。ハイブリッド・データセンターは、必要に応じてパブリッククラウドのリソースとサーバーを使用する機能を構築しつつ、一方では同じオンプレミスのデータセンター内でプライベートクラウドと従来型のワークロードのホスティングを兼ね備えるだろう、とエバンジェリスト達は主張した。ある程度までは、これは理にかなっていた。パブリッククラウド・サービスは、バックアップ、アーカイブ、ディザスタリカバリなどのパブリッククラウド・ソフトウェアサービスを使うために、あるいはローカル環境のプロセッサーやストレージリソースに余裕が無くなる負荷のピーク時にクラウドを使うために、ハイブリッド・データセンターに付けることができる。
ハイブリッドクラウドの興隆とオンプレミス回帰、2019年のこの二つのクラウド動向は、マルチクラウドと呼ばれる広範な戦略に勢いを与えている。すなわち、ハイブリッド・データセンターを持つ企業は、パフォーマンス、コスト、その他の特徴に基づいて複数のプロバイダーからパブリッククラウド・サービスのメリットを享受したいと思っており、プロバイダーのサービスやリソースを整然とかつ効率よく管理する方法を必要としているのだ。成功の鍵は、モジュラー技術にありそうだ。
モジュラーはマルチクラウド戦略に不可欠
地理的に分散した施設に配備されたリソースの、複数の集合体の管理に伴う複雑さを減らしながら、マルチクラウド戦略を展開する手段としてのモジュラー・ストレージ技術の考えは、2019年のクラウド動向のひとつとなるものだ。とはいえ、同じような技術がいくつかあり、その定義はまちまちだ。
例えば2018年後半に、Infinidatは「マルチクラウド・コンピューティングのためのエンタープライズクラスのストレージサービス」と同社が呼ぶNeutrix Cloud 2.0 サービスをリリースした。Neutrix Cloudは、Google Cloud、Microsoft Azure、AWS、IBM Cloud、VMware Cloud on AWS間のサービスを斡旋・調停して自らのコンピュート環境を補強するパブリッククラウド・ストレージサービスだ。Neutrix Cloud 2.0によって企業は、同時に複数のパブリッククラウド・コンピュート資産にアクセスしながら、クラウドストレージの一元管理ができるようになった。
Neutrix Cloud 2.0は、マルチクラウドの設定をオンプレミスと変わらないほど使いやすくする。Neutrix CloudのRESTful API、GUI、CLIの設計思想は、同社のオンプレミスのストレージアレイ製品、InfiniBoxと同様だ。ただし、ハードウェア管理の画面は完全になくなり、複数プロバイダーからくるクラウドリソースとの深化した統合が提供されている。Neutrix Cloudの典型的なワークロードのひとつは、レジリエンシと緊密に結びついている。どんなサービスをベースとしたクラウドコンピュート・リソース経由でもアクセスでき、且つ書き込み可能なブロックベースまたはファイルベースのデータセットのスナップショットを作成する機能は、最も費用効果が高くなるか、または最高のワークロードを提供してくれる。
Jon Toigoを偲ぶ
TechTarget編集部門
元バイスプレジデント Rich Castagna
去る2月12日、Storage Magazineのコラムニスト、カンファレンス講師、専門技術者、話術の達人、Jon William Toigoがフロリダ州ダニーディンの自宅で逝去した。ここTechTargetで何年にもわたりJonと一緒に仕事をし、彼を仕事上の仲間であると同時に友達だと思っていた我々にとって、このニュースはもちろんショックであり、言葉にならないほど悲しいものだった。
12年前、私はJonから電話をもらった。Jonを人伝に聞いて知ってはいたが、個人的に面識はなかった。Jonは、私がTechTargetに入社する以前からSearchStorageに寄稿し、Storage Decisionで1、2回講師も務めており、Storage Magazineとカンファレンスを掲載しているこのサイトにも関わるようになっていた。
Jonは、TechTargetの出版とカンファレンスからしばらく遠ざかっていたが、そろそろ復帰したいと考えていた。意固地でズケズケものを言う、そしてちょっと突飛な奴というJonの評判はよく知ってはいたが、即座に彼を我々の仲間に戻した。2007年12月、Jonはサンフランシスコで開催されたStorage Decisionの花形スピーカーの一人として、ディザスタリカバリ計画の試験について講演を行った。データ・プロビジョニングとデータ保護を論じる基調講演でも彼は主役を務めた。
驚くまでもないことだが、どちらのセッションも大盛況で、Storage Decisionカンファレンスおよびその後のセミナーにおけるJonの存在を不動のものにした。
TechTargetの読者やカンファレンス参加者がJonの話をもっと聞きたがっていることが、私にははっきりしていたので、私は彼にStorage Magazineで定期的にコラムを書くことを勧めた。結果として、これは長期にわたる連載となった。
Jonは論争の仕方をよく知っていた。書き物でもステージの上でも、時として彼が自ら好んで論争を仕掛けているように見えることもあった。しかし、彼はただ単に喧嘩を吹っかけているのではなかった。彼は自分が何かのテーマについて執筆する際、彼が講演の時に用いるのと全く同じ知性、洞察、根拠をもって取り組んだ。
Jonは、教育のためにエンターテイメントを使うことにおいては達人だった。彼の話を聞いて、人々は笑ったり嘲ったり、同意して頷いたり、失望して首を振ったりしたかも知れない。人によって反応はまちまちだが、共通していたのは、皆彼の話を聞いたということだ。たとえJonの考えが聞き手の考えと違っていたとしても、彼はその人たちが思索し、違った視点からも考えるように挑発していたのだった。
ステージ上のJonは突飛で大げさな奴として通っていたが、ひとたびステージを降りると彼はどこまでも紳士的だった。そこには、彼から個別にアドバイスをもらおうと一群の参加者が、決まって彼を待ち構えていた。彼は、彼らの話に耳を傾け、無限とも思える知識を分け与えることに時間を惜しまなかった。
TechTarget一同は彼の死を心より悼みます。彼の奥様Margaretと彼の6人の子供たちにお悔みを申し上げます。
編集者より:Jon Toigoは、数千の記事を書き、11冊の本を著し、彼のブログDrunkenData.comで、定期的にストレージとデータマネジメントの技術と課題を論じた。彼がTechTargetのために執筆した記事は、寄稿者のページにアクセスして調べることができる。
一方でCloudianは、2018年のIBMによるRed Hat買収をマルチクラウドの相互運用性とクラウドストレージのあるハイブリッド・データセンターとのシームレスな統合を可能にする戦略の証明だと指摘する。IBM-Red Hat間の取引の中心にあったのは、異なる環境を横断するアプリケーションのポータビリティだった。
Cloudianはデータ・ポータビリティにフォーカスすることにより、
・ハイブリッドクラウドの管理
・複数のサービスとクラウドのタイプ間でのAPIの互換性
・データ検索の一元化
・統合アクセス
・複数クラウド環境にまたがる非構造化データ用ストレージの集約
などの機能を提供している。IBMがRed Hatを買収した理由のひとつは、IBMのマルチクラウド戦略のためにすべての機能を揃えたプラットフォームを提供するためである。ストレージの観点からみると、Cloudianは自社のツールで、IBMがやろうとしているのと同様のことをすでに提供している。
Cloudianは、競合がやってみたいと考えているかもしれないことを追加機能として提供する、と自負する。全クラウドをまたがって稼働する共通のデータ管理ツールキットである。つまりこの技術は、モジュラー・ストレージ基盤のリソース管理などを越え、データそのものの管理を扱うということを意味しているのだ。
Jon William Toigoは元Toigo Partners InternationalのCEO兼主要執行役員、Data Management Instituteの会長。2019年2月逝去。
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