アプリケーションセントリック・ストレージ革命


アプリケーション主導型のストレージがストレージ市場の本質を変えつつある

Storage Magazine4月号より
Scott Lowe

 

筆者はストレージが全くもってつまらなかった時代を思い出す。毎年、毎年、メーカーはあれやこれやと新機能をつけては、製品をリリースする。その繰り返し。しかし、どれもこれも同じようにしか見えなかった。ベンダー同士の比較表も共通の項目を箇条書きしたようなもので、比較表さえあれば製品の選定は簡単だった。

ストレージベンダーは、ユーザーが使うアプリケーションの進化に反応するものの、結局、彼らが決めるのは、どの機能をいつ追加し、その機能をサポートするのにいくら課金するか、だった。ベンダーが最新のデータストレージ技術をリリースしても、もはや何の驚きもなくなっていた。

しかし、これはもう過去の話だ。

今日のストレージ市場は、大規模に均質化していると同時に、激しく細分化しており、ベンダーたちは、人気が出そうな機能を追加しようとするがうまくいかない。多くのベンダーは、コアとなる一連の機能をサポートする一方で、ベンダーの群れの中で目立ちたいとの願いを込めて、流行の機能を押している。そして、これら機能の流行り廃りに合わせて、ストレージベンダーは短命のサービスをサポートするのに必死になる。それもこれも、何かがヒットしてくれて、市場における自分の場所を確立したい一心からだ。

ものごとがもっと単純だった頃、ユーザーは大手ベンダーからSANやNASを買い、結構な金額を払ってインストールしてもらい、その製品のベンダーが次のバージョンで、最新のデータストレージ技術と本当に欲しい機能を追加してくれることを期待したものだった。あるいは、次の更新で最低でも、いわゆる付加価値機能の価格を下げて欲しいと思ったものだった。しかし、現在のストレージ市場はダイナミックで、変化に対して即座に反応するようになっており、多くの場合、ベンダーはそれに追いつくのにてんてこ舞いの状態だ。

 

クラウドにより変化するユーザーの購買行動

クラウドは、企業のITリソース消費に対して別な手段を提供することによって、それ以上のことを成し遂げた。クラウドによって、ITの買い手がIT基盤とサービスを見る目も180度変わった。クラウドのオンデマンド型の性質がITのすべてに浸透した結果、オンデマンド型アプローチに対応した新しいデータセンターが登場した。

ITのユーザーは、頼りにしているベンダーがニーズを見つけ出し、それに対するアクションを取るのを指をくわえて待っていることには、もはやガマンできなくなっている。今やそれに替わって、ユーザーが「この機能が欲しい」とググると、その要件を満たす一連のサービスがポップアップする時代になっている。会議の文字起こしをしなければならない?ならば、録音データをRev.comにアップロードするだけ。emailとファイル用のストレージを探している?MicrosoftがOfficce365とOneDriveで要件を満たしてくれる。今すぐ稼働する顧客関係管理システムが欲しい?HubSpotなら1時間で動き始め、オンプレミスのストレージは一切いらない。ITの担当者にとっては、ストレージのニーズもその他のニーズもクラウドで解決できる点では同じものだ。

即時性は抗いがたい魅力だが、ベンダーにとっては痛しかゆしだ。ユーザーは新規のストレージ製品を3年から5年(エンタープライズITセールスの継続期間)使うことになる。ユーザーが求めている特定の機能を、ベンダーがサポートできるかどうかは、セールスの成否に関わる。そこで失注すれば5年間位、そのユーザーはセールスの対象外になる。

 

支払形態の変化

ストレージベンダーは、4半期ごとに自分たちのビジネスの相当な部分をクラウドに持って行かれている。ストレージ購入の従来の方法はCapex(資本支出)型だ。だが、クラウドベースのストレージ購入は違う。クレジットカードを取り出し、何回かマウスをクリックすれば、即座にストレージが手に入る。

ストレージベンダーは、クラウドストレージ・プロバイダーが提供しているのと同様の課金体系を真似しようとしている。ストレージベンダーはもっとクラウド的な購入方法を提供するためなら、オンプレミスのハードウェア・セントリックな場面で、リースを創造する方法からクラウド的な課金へとシフトするなど、なんでもするだろう。

ストレージベンダーが、ユーザーにもっと簡易な方法を提供するためにリース会社と提携しているのを見ることもごく普通になってきた。いくつかのケースでは、元手無しの支払いが可能なクラウドプロバイダーに対抗すべく、ストレージ会社はクラウド的な従量課金体系を提供している。HyperGrid、Pure Storage、Tegileなどの企業は、リースまたはハードウェアの費用を引き受けて、ユーザーの月額料金に反映させることによって、この種の方法を提供している。

新しい課金体系と常に機能を追加する必要性によって、ベンダーは自社の製品をどう売って行ったら良いのかを考え直さざるを得なくなった。同時に、自社のコア製品を現在市場で求められているものに応えよ、という圧力はますます高まっている。

 

コア機能も使い方に応じて

振り返って2000年代半ば、重複排除のような機能を提供するストレージシステムが欲しいと思った時、そこには気になることが3つあった。

 

そもそも重複排除をサポートしているのか?

サポートしているとして、重複排除機能を有効にすることによってパフォーマンスへの影響はどれほどか?相当な影響が出るのではないか?

重複排除ライセンスはいくらくらいなのか、多くの場合かなり高価なのではないか?(時々、ユーザーが購入を思いとどまるほど高い価格があったが、これはユーザーがパフォーマンスについての苦情を言わないように、わざとそのような値付けをしていたのだと筆者は考えている。)

 

もちろん重複排除は、当時興隆しつつあった統合的データ機能セットの一つであり、ストレージの買い手が求めていたものだ。今となっては、これらの機能の多くは市場に参入する際の入場料のようなものだ。ユーザーは、これらの機能が無いストレージ製品など考えられない。例えば、フラッシュストレージ・ベンダーの多くは、ハードディスクがSSDより優れているギガバイト単価に対抗するため、統合的データ重複排除と圧縮を機能として持ち、SSDベースのデータストレージの容量あたり面積を減らしている。

Tegileの依頼でActualTech Mediaが行った最近の調査によると、全ストレージユーザーのほぼ半数が、自社のストレージ環境に重複排除が入っていると答えている。かつての高価なオプション機能だった頃とは隔世の感がある。

他のコア機能である、レプリケーション、圧縮、暗号化はますます重要になり、あって当然と思われるようになった。下のグラフに示されている回答は、これらの機能を持っていることを知っているユーザーからのものだ、ということに留意してもらいたい。一部の回答者は、自分たちのストレージに入っている機能を知らずにいるため、実際の数字はもっと高い可能性がある。

これと同時に、ある種の機能の実装を意図的に避けるメーカーも存在する。一部の新興ストレージベンダーは、重複排除を実装しておらず、その予定もない。これらの機能が極めて重要と考えられる時代に、彼らはなぜこのような事をするのか?

全てはパフォーマンスのためだ。ストレージ市場の細分化が進行する中、ユーザーは特定のニーズを満たすため、ますますニッチな製品を買うようになっている。これらの製品は、容量に関係なくひたすらパフォーマンスに焦点を絞っている。パフォーマンスは、特定の処理にとっては、とりわけ重要だ。例えばE8 Storageは、ラックスケールでフラッシュベースの製品を持っており、スピードを上げるためにNVMeを使っているが、高パフォーマンス実現のためにもう一つ行っているのが、重複排除と圧縮機能のカットだ。これらの容量節約のための機能は、パフォーマンス方程式にレイテンシを加える。E8 Storageを買うユーザーにとって、パフォーマンスは全てに優先する。

ある程度市場にいる年数が長いベンダーでも、これまでのストレージのイメージを変え始めている。例えばInfinioは、VMwareホストにインストールされ、ローカルホストのRAMにホットデータをキャッシュして従来型のストレージを加速する、ソフトウェアベースのキャッシング製品を販売している。

 

本当に必要な機能には流行りも廃りもない

もちろん、これらコアデータ機能は機能拡張戦争のごく一部にすぎない。我々は、ストレージベンダーが一刻を争いながら、OpenStack、コンテナ、VMware仮想ボリューム(VVols)などのサポートを追加したのを見てきた。最新データストレージ技術サポートについての宣伝は、初めの頃こそ熱烈だが、市場における重要性が上がっても下がっても、トーンダウンする。

しかしユーザーがこれらの機能を本当に必要としている場合は、しばらくの間はユーザーの興味が宣伝のトーンダウンによって失われることはない。例えば、あなたがコンテナをネイティブでサポートしない新規のストレージを買った1年後に、あなたの会社の開発チームが全ての機能をDocker上で実行することを決定、などという事態は避けたいはずだ。

これらの流行のほとんどは、しばらくすると廃れてしまう。例えば、OpenStackは一時期大きく盛り上がったが、現在のプロスペクトにはかつての勢いはない。ベンダーは、自社のストレージアレイにOpenStackのサポートを追加するために多大な努力をした。彼らの多くにとって、その努力に対するリターンは全く無いかごくわずかだった。しかし、当時はそれが重要に思えたのだった。

 

いらないものがいっぱい入った福袋は嬉しくない

これら全てのことはユーザーにとって何を意味するのだろう?最初に言っておくが、現在開発中のストレージソフトウェア製品は、かつてなく多い。ユーザーは、自分が必要とするものを、自分が求める機能が入った製品として入手できる。全てのチェック項目を満たす製品もありそうだ。さらに、企業が様々なニッチな要件を満たす複数のストレージ製品を導入することも、以前より容易になってきた。おそらく現在の企業には、汎用ストレージに無数のサービスをさせる汎用システムと、データサービスは行わず、分析とAIをサポートするために、ひたすら高速なもうひとつのシステムが存在しているのだろう。

ストレージに対するこのアプリケーション・セントリックなアプローチは、ますます一般的になってきている。市場には汎用ストレージ製品が、必要以上にあふれている。最近のデータストレージ・ベンダー数社は、自らを差別化し市場に相応の領域を切り開くため、特定の使い方に焦点を絞ることで素晴らしい仕事をしている。これらアプリケーション・セントリックな製品が、ユーザーにとって特定の使い方をサポートしてくれて、必要のないあるいは邪魔になる機能に煩わされることがないと分かれば、ユーザーは心の平安を得られるというものだ。

 

Scotte LoweはTechTargetの前CIOで、TechTargetやその他の出版社に頻繁に寄稿している。現在は、ActualTech MediaのCEO兼創設者で1610グループのマネジメント・コンサルタント。Twitterのアカウントは@OtherScottLowe。

 

 

 

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