鍵を握るアーカイブシステム(後編)


Jon William Toigo
Storage Magazine 2014年5月号より

アーカイブ媒体のリーダーは復活したテープ

アーカイブの媒体に関しては、テープがアーカイブにとって必要不可欠な存在として再浮上しつつあり、同時に過去10年に亘って問題になってきた復元力、耐久性、容量についての懸念も払拭している。平均寿命30年以上、新しい磁性体バリウムフェライト(BaFe)を塗布することにより、わずか一巻のLTOカートリッジに非圧縮で32TBのデータ保存が近い将来実現、しかもデータ転送速度は250MB/秒以上(ほとんどのディスクストレージ装置の性能を超えている)、これらはテープの技術的優位性を強くアピールするものだ。

簡単に言うと、テープは容量、転送速度、コストの面でディスクベースのアーカイブを圧倒しているのだ。ディスクベースのストレージがテープの容量に近づくには、重複排除や圧縮技術を使っても、テープよりはるかに高価で複雑な装置が必要だ。さらに、限られた容量のディスクにより多くのデータを詰め込む技術には、アーカイブのレポジトリにとって望ましくない変数がついてくる。この技術は、独自のデータコンテナ・フォーマットを使うことになり、長い歳月の中での変化に耐えられないかも知れないのだ。

テープの重要な技術革新のひとつに最近加えられたのが、IBMによって作られたテープ用ファイルシステム、リニアテープファイルシステム(LTFS)だ。LTFSによって、テープライブラリーを超大容量NASシステムとして簡単に使えるようになった。LTFS形式のテープを使うことによって、データをアクティブ・アーカイブ・レポジトリに書いたり、取り出したりすることができる。LTFS形式でフォーマットされたテープは、ごく普通のHTTP、NFS、CIFS/SMBによって共有ファイルとして、シンプルな形でかつコストもかからず、表示される。もちろん、サードパーティ・ソフトウェアは不要だ。自社のLTFSレポジトリを構築するのに苦労したくないという向きに、バックエンドのどんなテープライブラリーとも連携するCrossroads SystemsのStrongBoxのような、事前にセットアップされたLTFS「ヘッド」を提供しているベンダーもある。

LTFSを使ったアクティブ・アーカイブは、従来のファイルストレージとアーカイブについての考え方を混ぜ合わせた興味深いモデルだが、ある部分で制限もある。LTFSは、動画、音声、ずっしりと内容が入った遠隔測定や視覚化出力などの「ロング・ブロック」 ファイルに最適化されているが、この技術はブロックの短い、小バイトのユーザーファイルとは相性がよくない。

この制約は逆に、いくつかの使用事例においては非常に有難い特長である。LTFSが、石油ガス探査、ヒトゲノム研究、製薬研究、映画テレビ制作といった分野において、非常に人気が高いということがそれを物語っている。これらはみな、ロング・ブロックファイルを扱う仕事である。これらの垂直市場では、高速で安定したリード・パフォーマンスを提供するストレージ媒体が好まれる。LTFSで長大ブロックのファイルがアクセスされ、リードが始まると、要求しているユーザーに、回転式のディスク上にデータがある場合よりも、さらに安定してジッターのないデータが流れる。

コストとエネルギー消費も、アクティブ・アーカイブにおける重要な要素である。現在のテープ容量であれば、保存された数PBのファイルは、アクセスフロアのタイル占有はわずか2枚分、消費電力はわずか電球数個分の装置に収めることができる。

 

アーカイブと相性のいいオブジェクトストレージ

全てのアーカイブデータが長大ブロックのデータではないし、階層化されたファイルシステムをベースとしているわけでもない。例えば、Webデータはフラットファイルシステムを使うことが多いが、そこでは、ページレイアウトのような単一オブジェクトが、場合によってはたくさんの小さなデータ部品から構成されている。

LTFSは、一見小さなファイルの巨大な集合体のアーカイブソリューションには不向きに見える。これが、パフォーマンスや所有コストがいまいちでもディスクベースの装置が使われ続けている理由だ。昨年、Information Storage Industry Consortium(INSIC)が参加して、The Clipper Groupの主催による、ディスクベースの装置とテープベースの装置使用時のアーカイブレポジトリ所有コスト評価試験が行われた。500TBのディスクアーカイブとテープ装置の5年間の所有コスト(TCO)を比較すると、購入費用と電気料金に大きな差があることをINSICはつきとめた。テープ装置が使用した電気代はおよそ4500ドルであったのに対し、ディスク装置の場合は11万ドル、テープ装置の購入費用は15万ドル、ディスクの定価130万ドルの十分の一近くの価格である。The Clipper Groupは12年間のTCO比較を行い、ディスクはエネルギーコストだけでテープの500倍高いことを明らかにした。

前の章でLTFSは短ブロックのファイルと相性が良くないと書いたが、ブロックが短いファイルと長いファイルが混在したアーカイブにおいても、LTFSの使用を促進する新しい技術をSpectra Logic社が導入した。Spectra Logic社のBlack Pearlサーバーは、一見何の変哲もないLTFSヘッドエンドだが、中身はひとひねりされている。この製品は、オブジェクトストレージをサポートしているのだ。BlackPearlは、Spectra Logic社がDeep Simple Storage Service(DS3)と名付けた新しいプロトコルと連動して動く。この名前からある別のプロトコルを連想する人もいるかもしれない。そう、Amazon Web Services' Simple Storage Service(S3)プロトコル、ファイルをAmazonのストレージクラウドに転送するときに使われるプロトコルだ。少なくとも、Spectra Logic社は、ユーザーがそういう連想をするはずだと思っている。DS3はAmazon S3のコンセプトを利用しているが、アーカイブに求められる重要なイノベーションを付け加えている。BULK GETとBULK PUTがそれである。これによって多数のファイルあるいはデータオブジェクトを瞬時にアプリケーションワークフローからBlackPearlサーバーに移動できるようになってきた。一旦サーバーに集められたこれらのデータオブジェクトは、ひとつの大きなブロックファイル構造にまとめられて、LTFSフォーマットのテープに移される。

Spectra Logic社のオブジェクトストレージに対するアプローチは、ビデオやオーディオの編集や保存を行うアプリケーションがオブジェクトコンテンツストレージへの出力もできるようにしている放送業界だけでなく、高いパフォーマンスやビッグデータ・コンピューティングの環境でも、かなりの注目を集めている。Spectra Logic社によって開発された最初の「クライアント」はHadoopアーキテクチャーでBlackPearlとDS3とのやりとりを行う。一方で他のクライアントはメディア&エンターテイメント業界専用のソフトウェアで作られたアプリケーションワークフローをDS3と接続するシステムとして現在開発が行われている。

 

新たなユーザーがオブジェクトコンテンツをサポートし始めた事により、アーカイブは独自ソフトウェアとファイルシステムに重点を置いたアーカイブから遠のいて、より簡易なアーカイブ統合とアプリケーションワークフローのデータ管理を可能にするオープンアーカイブの仕組みに近づいている。数カ月もしたら、我々はフレープ(Storage Magazine 5月号の筆者コラム「Stop the data storage presses, flape is here!」記事参照)のことを話しているかもしれないのだ。フレープとは、今業界で名の通っているベンダー数社のエンジニアで議論されているストレージアーキテクチャーであり、データがフラッシュとテープ(つまり、フレープ、お分かりかな?)に同時に書き込まれる、というものだ。データオブジェクトやファイルへのアクセスや更新頻度が低下すると、データはフラッシュ・コンポーネントからは消去され、新たな書き込みスペースが確保される。一方で、テープアーカイブのコピーは保管のルールが定義した期間使い続けることができる。

フラッシュとテープを組み合わせたアーカイブのもう一つの実装モデルはクラウドサービスになるかもしれない。これは何人かの市場ウォッチャーがフラウドと呼んでいるものだ。富士フィルムのDternityやPermivaultといったサービスがリードする形で、テープアーカイブはすでにクラウドサービスに登場し始めた。昨年、大手クラウドストレージベンダーNirvanixの倒産で、短い時間枠の中で自分のデータを戻せるように、運用の中でテープを使用するクラウドストレージプロバイダーを選択する必要性はより大きくなった。Nirvanixのユーザーはほとんど警告を受けておらず、WAN経由でクラウドから自分のデータを取り出す時間はわずかしかなかった。

アーカイブは一見退屈なものに見えるかもしれない。しかしそこでは今沢山の技術革新が起こっている。この領域に、注目せよ。

 

 

著者略歴:Jon William ToigoはIT歴30年のベテラン。Toigo Partners InternationalのCEO兼主要執行役員、Data Management Instituteの会長でもある。

 

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