ネットワークサーバー型ストレージ

著者:Jacob N. Gsoedl
Storage Magazine 2013年10月号より

 

直付けのストレージは長い間、ネットワーク・ストレージより下に見られていた。しかし、新興のテクノロジーが、この高い拡張性を持ったストレージリソースをプールし共有する簡単な方法を提供したことで、新たな注目を集めている。

 

ここ数年、従来のストレージシステムは、ストレージアレイ構築の別のアプローチから挑戦を受けている。伝統的なシステムは一般的に、ストレージコントローラー、ディスク、インターフェース、ファームウェアを専用のアレイにまとめたもので、その部品や内部の仕組は難解で、ストレージベンダーにしか分からないものになっている。これらのシステムは高価で複雑で、情報の開放性を欠いているため、ストレージを使っているいくつかの現場では、これに替わる手法が注目を浴び始めている。

ますますモバイルとクラウドコンピューティングに傾いていくコンピューター業界の状況も、よりオープンでコストパフォーマンスの良いストレージプラットフォームを世に出す推進力となっている。

従来のストレージアレイ・アーキテクチャーに対する最も有力な代替ソリューションの中に、サーバーに直付けされたストレージをネットワークで直接、共有ストレージプールに接続する製品がある。ネットワークサーバー型ストレージとしても知られるストレージシステムだ。汎用のx86ベースのサーバー、そこに直付けされたディスク、そして標準サーバー上でも稼働するストレージソフトウェアとの組み合わせにより、共有ストレージとして使えるようにすることで、従来の専用システムより遥かに安い金額で、よりオープンなストレージプラットフォームが実現した。ネットワークサーバー型ストレージは、今まさにその数を増やしつつある新興メーカーから提供され、クラウドサービス・プロバイダーのお気に入りのストレージ・アーキテクチャーとなっていたが、ここへ来て大手ストレージベンダーの製品ポートフォリオにも入れられるようになってきた。

 

ネットワークサーバー型ストレージの利点を例証する

ネットワークサーバー型ストレージの成功には、いくつかの理由がある。真っ先に挙げられるのが、そのコストパフォーマンスの良さだ。多くのシステムからのアクセスを受けるストレージアレイは、これまで少ない遅延と大きな帯域への要求に特化した、独自のハードウェアとコントローラーをベースに作られるのが常だった。ストレージベンダーは、このやり方で一気に突き進み、利幅が大きくもうかるストレージハードウェアビジネスを作り上げた。しかし、マルチコアのx86ベースシステム、各種インターフェース、ネットワークが高速になると、専用のストレージハードウェアと比較したパフォーマンスの差は縮まり、いつしかその差もなくなった。それでも、既存のストレージベンダーは、専用のストレージハードウェアを使い続け、高い利幅を保つこれまでの方針を堅持した。標準のx86ベースのサーバー上で稼動する、ネットワークストレージ・システムが登場するのは時間の問題だった。

汎用のサーバーハードウェアを使うネットワークサーバー型ストレージは、HBA(ホストバスアダプター)、アダプター、ディスク、その他の部品にベンダーが載せている利幅を払わなくてすむため、より安価になります」マサチューセッツ州Milfordに本社を置くEnterprise Strategy Group(ESG)のシニア・アナリストTerri McClureはこう語る。

ネットワークサーバー型ストレージは、仮想化の利点を最大限に享受している。ストレージソフトウェアを、ベースとなるハードウェアから切り離すことで、低価格汎用のx86ベースシステムとそこに直付けされたストレージを含む、あらゆるタイプのハードウェア上で稼動するストレージスタックが、現実のものとなった。ネットワークサーバー型ストレージは、仮想化を利用してこれまで利用されていなかったサーバー直付けのストレージを共有ストレージリソースとしてプールする事により、ストレージの利用率向上に貢献している。いくつかのネットワークサーバー型ストレージ製品は、同じサーバーのハードウェア上でストレージと仮想マシン(VM)の処理を組み合わせて、さらにサーバーリソースの利用率を向上させている。この事は、データセンターのハードウェアを減らし、電力の消費と設置スペースを抑えた、よりコストパフォーマンスの良いデータセンターの実現を意味する。

ネットワークサーバー型ストレージはまた、管理が容易だ。ストレージアレイ、特にファイバーチャネルシステムは、設置と管理が複雑で、ストレージの専門家の技術力を必要とする。それに対してネットワークサーバー型ストレージは、サーバーチームで管理できるため、ITリソースも少なくて済み、運用コストの低減につながる。もうひとつ、管理の容易さのお陰で、ネットワークサーバー型ストレージは、クラウドサービス・プロバイダーや、コンシューマーと直に向き合うビジネスを展開しているWeb2.0の企業と、非常に相性が良い。

 

ネットワークサーバー型ストレージが持つ様々な顔

今日のネットワークサーバー型ストレージ製品は、様々な特徴付けがなされ、またその出自も異なっている。しかし、これらの製品にはひとつ共通している事がある。それは、全ての製品が、標準のサーバーハードウェアを使用し、サーバーに直付けされたストレージを集約して、単一の共有ストレージプールにする点である。

 

仮想ストレージアプライアンス(VSA)

VSAは、仮想マシン内でストレージソフトウェアを稼働させ、それを仮想マシンイメージとして、ひとつまたはそれ以上の物理ホストに配布しインストールする。VSAは自分が稼動しているホストに直付けされたストレージを共有プールに集める。現在販売されているVSAがサポート可能なホスト数は、ベンダーにより変わってくる。VMwareのvSphere Storage Applianceは、3台までのローカルストレージを組み合わせて共有ストレージリソースにする。この共有ストレージはNetwork File System(NFS)経由でアクセスされ、vCenterを通じて管理される。LeftHand OSをベースにしたHewlett-Packard (HP)の Store Virtual VSAは、ローカルストレージをプールして、iSCSI経由でアクセス可能な共有ストレージを、最大16台提供している点でVMware VSAを凌駕している。NetAppのData Ontap EdgeはData Ontap上を稼動するVMで、現在のところ1台のサーバーノードしかサポートしていないが、他のNetAppのストレージとシームレスにやりとりできる。

現在のVSAが提供する機能は、中小企業(SMB)や大企業の支店のような、小規模の環境に適合している。ストレージハードウェアを追加しなくても、既存のサーバー上にインストールできるために、VSAは非常にコストパフォーマンスが優れており、インストール、サポートも容易である。VSAはSMBの市場を越えて広がる力を秘めているが、今日(こんにち)それに制限をかけているのはもっぱらVSAベンダー達である。NetAppやHPの一部のケースで見られるように、高収益のハイエンドストレージビジネスを保護するベンダーもいれば、VMwareの場合のように、業界の既存の収益構造に波風を立ててまで、VSAの普及を阻害するようなことはしたくない、というベンダーもいる。VMwareは特に、自前のVSAと可能性を秘めたVMware Virtual SAN(vSAN)を持っているが、様々なVMware APIと連携してきたストレージベンダーを刺激しないように、慎重な路線を取っている。

 

コンバージド・ストレージシステム

サーバーのリソースを最大限に活用するために、ストレージとVMの処理を同一のサーバーハードウェア上で稼動させる製品を提供する、一群の新興企業が登場してきた。その考え方は、基盤のホストの計算リソースの数パーセントをストレージの仕事に割り当て、残ったリソースを仮想マシンに割り当てる、というものだ。ストレージとVMの処理を単一のシステムで行うメリットは、サーバーリソースの高い利用率以外に、通常は複数のサーバーノードで構成するところを、ストレージとVMを組み合わせて単一のシステムで処理する事による、管理の容易さ、低価格が重要な利点としてあげられる。欠点としては、ストレージとVMを単一のシステムで稼動させるために、拡張性に限界を生じるケースがあることと、VMの処理がストレージの処理の邪魔をする、あるいはその逆が起こる可能性が増えることだ。

現在は、ほんの一握りのベンダーが仮想化とストレージを集約した製品を提供している。Scale ComputingのHC3はSMBをターゲットに、サーバー型マルチノード、スケールアウトNAS上にオープンソースのRed Hat KVMを走らせている。Nutanixは、複数のVMにて並行して追加サービスとしてストレージスタックを走らせ、物理サーバーノードのストレージを仮想化してスケールアウト・ストレージの統合プールに集約する。同製品は、SMB、エンタープライズ両方をターゲットとしている。SimpliVity OmniCubeのスケールアウトNASは、リアルタイム重複排除や圧縮のような機能を持ちながらVMのホストにもなり、SMBエンタープライズ両方の市場を目指している。仮想マシンの処理を加えることによって、コンバージド・ストレージシステムはまさしく、ネットワークのサーバー型ストレージのバリューポジションを新たなレベルへと引き上げている。

 

 

 

分散型ファイルシステム

NASの市場は大手ストレージベンダーによって席巻されているものの、オープンソースの分散ファイルシステムによって、その他のベンダーは汎用のx86サーバー上で稼動するNASシステムを構築できるようになった。その好例がRed Hat Storage Serverだ。このサーバーは、Red Hat社が2011年にGluster社を買収した時に獲得したGluster FSスケールアウトNASをベースにしている。もう一つの例はOracle Zeta File System(ZFS)だ。ZFSはもともとSunによって開発され、Oracle社のZFS Strage7000シリーズで使われている。ZFSは、オープンソースのソフトウェアで、Nexentaのようなベンダーによって製品化の道を見出している。同社ではZFSをソフトウェア定義のストレージソリュージョンとして売り出している。

「NexentaはZFSを使い、管理ソフトを(そのまわりに)置き、(ユーザーが)NASストレージやNASゲートウェイを構築できるものとして販売しています」ミネソタ州Stillwaterに本社を置く、StorageIOのシニア・アナリスト、Greg Schulzはこう語る。同様に、Apache Hadoop分散ファイルシステムは汎用サーバー上で稼動し、数台から大規模共有ストレージプール作成用の数千台のサーバーまで、あらゆる規模の構成をサポートしている。

分散ファイルシステムをベースとしたネットワークサーバー型ストレージ製品は、大容量のファイルから作られているコンテンツにとって、コストパフォーマンスの良いストレージの選択肢になりうる。有名ブランドのNAS製品を使わず、技術的に進んだ新しい方式に取り組むのは、労も多いが、相当量のコスト節約、従来のNAS製品では得られなかった製品特有の機能、使い勝手がその苦労を埋め合わせてくれる。

 

オブジェクトストレージ

オブジェクトストレージは多くの点でスケールアウトNASに似ているが、前者はファイルではなくオブジェクトに固有の識別子をつけて管理する。オブジェクトのメタデータはNASのファイルシステム属性より遥かに多くの情報量を持っている。オブジェクトストレージは通常RESTのようなHTTP API経由でアクセスされ、データの冗長性はオブジェクトを異なるノードに複数回保存することによって実現している。

クラウドストレージ市場の要求に応えるために、オブジェクトストレージは複数のサーバーノード上に分散して稼動するように設計されており、サーバーを追加しただけで拡張できる。換言すれば、オブジェクトストレージは、ネットワークサーバー型ストレージとして設計されている、ということだ。オブジェクトストレージは、サーバー内部または外部どちらのアプリケーション用としてもファイル型コンテンツを保存するのに最適だ。オブジェクトストレージは、データベースやトランザクションを処理するアプリケーションのようなトランザクション型システムには不向きである。Web2.0の企業が独自のオブジェクトストレージを開発している一方で、Caringo CAStorEMC AtmosHitachi Content PlatformNetApp StoragGRIDなどのオブジェクトストレージ製品は数年前から販売されている。

 

Windows Server 2012 Clustered Storage Spaces (クラスター化された記憶域スペース) Windows Storage Spaces(WSS:Windows記憶域スペース)、Server Message Block3.0拡張、データ重複排除、シンプロビジョニングをサポートしているWindows Server 2012は、ハイエンドのネットワークサーバー型ストレージシステムを構築するための全ての材料を取り揃えている。WSSを、フェールオーバー・クラスター機能と組み合わせることによって、Windows Server 2012は複数のサーバーノードから構成されるクラスター化された記憶域をスペース提供する。クラスター化された記憶域スペースは、通常2台か4台の少数のサーバーと、それらのサーバーに接続された全てのSerial Attached SCSI(SAS)JBOD筐体を組み合わせる。アクセスはCluster Shared Volumes経由で単一の名前空間に統一され、サーバー、JBOD筐体、割り当てられた仮想ディスクの数にかかわらず、すべてのサーバーノードからアクセスが可能だ。2013年1月のESG研究レポートは、「ストレージ効率、迅速さ、新機能および改善された機能の透明性によって、高いパフォーマンスと、コストパフォーマンスの良いWindows Server 2012は、中小企業にとっても大企業にとっても、同じように簡単に使える製品である」と結んでいる。

 

ソフトウェア定義基盤サービスに向かう流れ

低コスト、リソースの高利用率、簡易化された管理、これらの利点はネットワークサーバー型ストレージプラットフォームにとって、明るい未来を指し示すものだ。非構造型データの急増や、社内システムあるいはクラウドにシームレスにシステムを拡張する必要性は、ネットワークサーバー型ストレージ・ソリューションが、市場を拡大する重要な推進力となっている。長期的な視点で見ると、仮想化、ソフトウェア定義による基盤そしてデータセンターへの動きは、基層のハードウェアと、基盤サービスとの分離の増加、という方向に行くだろう。ネットワークサーバー型ストレージは、VM、ネットワーク・ストレージ、セキュリティその他の基盤サービスが共有物理ハードウェア部品上で稼動する未来への一ステップなのだ。

 

著者略歴:Jacob Gsoedlはフリーのライター兼業務システム部門取締役。連絡先は jacobslab@live.com