ストレージを占拠せよ!
著者:Jon William Toigo
Storage Magazine 2011年12月号より
データ・ストレージの技術は日々改良されているにもかかわらず、ストレージ・ベンダーは相変わらず古いトリックにしがみついてるだけのように見える。
ストレージマガジンの2011年最終号で、私の最初のコラムが出版されるというのは、何か変な感じがする。この11ヶ月、沢山のインクが紙に刷られた(いや、沢山のピクセルがスクリーン上に映された、と言うべきか)。今日のデータ・ストレージ製品とその使い方に関する、価値やメリット、制限事項や付随する課題、これらについて様々な調査結果や理論、そして意見がこの雑誌に掲載されてきた。この状況の中で、現在進行中の議論に参戦して本当に価値のある意見を言って本誌に貢献する、というのはかなりハードルが高い。
もうひとつ困惑しているのが、私が今マサチューセッツ州Newtonという町のホテルの一室でこのコラムを書いている、という事実だ。ここは、ストレージ・ハードウェア市場のリーダー、EMCの地元Hopkintonにほど近いところにある。私の仕事をよく知っている方々はみな、私の意見がEMCの製品、マーケティング、セールス・テクニック、その全てについて、かなり批判的になる傾向があるのをご存じの筈だ。私がこのような考えを持つに至ったのは、巨大企業がちっぽけな会社のほとんどを呑み込み、その過程で、ストレージの課題を解決するためのコンシューマーが入手できる選択肢を減らした、あの急成長の「金ぴか時代」*訳注1にまで遡る。私はIT業界における30年のキャリアを通して、Hopkintonに対して胸に一物抱いてきており、私の考えは公の場ではっきりと声に出して語ってきた。この状況下で、この雑誌からコラムを書かないかと言われたときは、正直言って、びっくりしたし、何事かと興味もそそられた。この雑誌の出版を成り立たせているのは広告収入であり、その広告収入は、私がしょっちゅう欠陥を見つけている製品のベンダーから来るものだからだ。
上述したこと全てにもかかわらず、読者の皆さんが、私のために貴重な時間を割いて下さっていることに感謝する。とともに、私はその時間を決して無駄にしないよう努力することをここに約束する。私は、皆さんのほとんどが直面している課題を理解している。皆さんは、かつては大勢の人で行っていた仕事を一人で担い、顧客に対しては、どこまでも縮小する予算のなかで、常により高いサービス・レベルを提供し、それと同時に、絶望的なストレージ技術の山を、何とか整合性があり管理可能なリソースにすべく、日々格闘しておられる。
最近、中規模のデータセンターで毎日一兆個以上のトランザクションが、回線、ケーブル、ワイアレスの中を飛び交っている、という記事を読んだ。これは即ち、一兆個の奇跡だ。光子、電子、電波が、想像しうる限り最悪の環境を通って、見事往復の旅を果たし、データへの要求を運び、その応答をユーザーやアプリケーションに返す。皆さんは、これらの奇跡を起こしているミラクル・ワーカーだ。
たとえ皆さんの存在が認知されたとしても、もちろん、この奇跡にたいする感謝の言葉はないし、現在の栄光に満足している時間はない。正直に言うと、ストレージ・ランドの生活は厳しく、これからもっともっと厳しくなろうとしている。
新たな金ぴか時代の到来とともに、我々はベンダーがまたもや古いトリックを使うのを目にしている。孤立した(他ベンダーと連携できない)ストレージ・コントローラーの付加価値機能で、コンシューマーをロックインし、競合をロックアウトする、というようなトリックだ。一般的に言って、この設計路線のメリットはほんのわずかしかない。異機種のプラットフォームを管理する事は禁じられ、データのルーティングは複雑さを増し、ストレージ・コンポーネントのパーツのコストは上がり、日頃からいやらしいと思っているソフトウェア・ライセンスコストがその製品のために追加され、データセンター環境に重大なシステムダウンのリスクを呼び込むことになるからだ。ベンダーのエンジニアから聞いた話だが、組み込み型の付加価値ソフトウェアは、インターオペラビリティ(相互運用性)テストのマトリックスが複雑すぎるという単純な理由と、テストの実施から完了に至るまで、時間が掛かりすぎる、という理由から、通常、極めて雑な検証しかされない、という。かくして、CA Technologiesが今年初めに3,000社を対象に行った調査で、昨年一部ストレージが関連した障害によって、延べ1億2千7百万時間以上のダウンタイムがあった、という報告を聞いてもさほど驚かないだろう。("The Avoidable Cost of Downtime" 2011年5月CA Technologies)
さて、この金ぴか時代に、正統派巨大ストレージ・ベンダーたるもの「クラウド・アーキテクチャ」も提案しなければならない、ということは言うまでもないだろう。どのベンダーも、自社専用のハードウェア/ソフトウェアを入れたラックを使い、自社の小さなメインフレーム*訳注2を進化させようとしている。究極の「ワンストップ・ショップ」を提供すべく、自社のスイッチしかサポートしていない、ネットワーク・プロトコルのセットを実装したサーバー・ハイパーバイザと付加価値「シグネチャ」ストレージ装置を組み合わせた代物だ。彼らはアナリストを味方につけて、またもや「シングル・ソース」の説教をさせようとしている。あるForresterのアナリストは最近、単一のベンダーから全ての技術を買うことこそが、ストレージコストを削減する「唯一の現実的方策」と書いた。まあ当たらずとも遠からず、ではあるが、ベンダーはこの言葉を呪文のように唱えて、私がこの頃訪問する会社の営業部門にいる、技術に疎い意志決定者たちの耳にこの呪文を入れている。多くの人が1970年代のIBMメインフレームのデータセンターの整然とした様子を懐かしがる。しかし、一つのベンダーへの依存が桁外れのハードウェア/ソフトウェアのコストをもたらし、急いでいるバグフィックスや製品の更新がなかなか行われなかったことなどを、みんな忘れているのだ。我々は過去の教訓を忘れ、今まさに過ちを繰り返そうとしている。
いや、あるいはそうではないかもしれない。私は、予測可能な未来のために、ストレージのこのコーナー、この雑誌を占拠しようと思う。私は、テント、寝袋とストレージマガジンのお気に入りの号を持って来たい、という人は誰でも招待する。みんなで全く新しい議論を始めようではないか。壊れたストレージのモデルが、私たちを彼らのいいように改造する前に、私たちが彼らを改造する、そういう議論をしようではないか。この金ぴか時代の恩恵をうけるのは、あいかわらず懐が温っかくて無制限のストレージ購入予算を持っている1%の企業だ。残りの99%は、これから可能な選択肢を探し始めなくてはならないのだ。
訳注1:金ぴか時代(きんぴかじだい、若しくは金めっき時代、英: Gilded Age)は、南北戦争終結から19世紀末ころまでの約30年間をさし、アメリカ資本主義が急速に発展をとげた時代のこと。文学者マーク・トウェインの同名の小説に由来する。(wikipediaより引用)
訳注2:原文ではmainframe "mini-me"となっている。Mini-Meは、『オースティン・パワーズ』シリーズに登場するこびと。
著者略歴:Jon William ToigoはIT歴30年のベテラン。Toigo Partners InternationalのCEO兼主要執行役員、Data Management Instituteの会長でもある。
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