半導体ストレージの現状

著者:Phil Goodwin
Storage Magazine 2011年10月号より


半導体ストレージは、高パフォーマンス・アプリケーション用ストレージの選択肢の一つとして業界の中での位置を確立した。

 

半導体ディスク、という名前がついているが、実際は従来のディスクとは似ても似つかない。従来のディスクは円形だが、半導体ディスクは平らな物体で、要するにただのメモリーチップだ。このような区別の仕方は一見馬鹿げているように思うかもしれないが、実際にデータ・アクセスが頻発するシステムを構築するとき、これを覚えておくと非常にやくに立つ。フラッシュ・メモリーとフラッシュ・キャッシュとして説明されることもある半導体ディスク(SSD)は、ディスクが回転するハードディスク・ドライブ(HDD)より メモリ(特にキャッシュ・メモリ)との共通点の方がずっと多い。SSDは、ストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)の背後に配置され、システム全体のストレージ・プールとして利用されるのが一般的だが、このような構成においてSSDは大きなキャッシュの貯蔵庫のような働きをする。このことは、SSDのストレージ・システムへの追加を設計するときに、重要なポイントである。

 

 

SSDチップ技術

 

今日市場で主流になっているのは、以下の3種類の半導体ストレージ技術である。シングルレベル・セル(SLC)、マルチレベル・セル(MLC)、エンタープライズ・マルチレベル・セル(eMLC)の3つである。技術的にかなり突っ込んだ話に思えるかもしれないが、SSDの適切な導入をするためには、HDDの技術についてもそうしているように、それぞれのSSDの技術を理解する必要がある。

 

MLCは現在最も普及している、コンシューマー・グレードの半導体ストレージである。一方、エンタープライズ向けの製品は主にSLCで作られている。MLCはGBベースあたりでは、相当低価格で販売されているが、しかし、寿命の短さも相当なものだ。個々のSLCメモリーセルは、障害が起きるまでにおよそ10万回の書き込み処理が可能なのに対して、MLCは障害が起きるまでに、3千回から1万回の書き込み処理しかできない。セルの障害はSSDのパフォーマンス低下の原因となり、SSD`が時間をかけて徐々に使えなくなってしまう。これで明らかなように、MLCデバイスが容量とパフォーマンスを保持できる時間は、SLC同様の書き込み付加を加えた場合のわずか10分の1である。そのため、ベンダーに製品の「使用統計データ」を書かせ、それを装置あたりのコストの計算式に入れ込んでおくことが大事だ。他製品の半額、という極めて魅力的に思える買い物も、製品寿命が高価な製品に比べればほんのわずか、となればもはやお買い得でもなんでもなくなるだろう。

 

エンタープライズMLC(eLMC)は、ストレージ業界で注目を集めている新しい技術である。およそ2万回から3万回の書き込み処理が可能なeLMCは、価格においても寿命においても、SLCとeLMCの中間に位置する。Nimbus Data Systems Inc.は、eLMC技術への注力を表明しており、他社がいまだにSLCを使っているなかで、全製品にeLMCを採用している。書き込みに関連した寿命と劣化を回避するために、Nimbus社のコントローラー・ソフトウェアは「レベル・ウェアリング」機能をもっており、フラッシュ・セルの書き込みブロックを揃える。Nimbus社は、製品寿命に不安を持つユーザーのために5年間の保証も提供している。

 

 

ホスト型半導体ストレージ

 

今立ち上がり始めているもう一つの技術が、ホスト型の半導体ストレージである。こちらはホストにPCI Express (PCIe)を直接挿す形で提供される。 Fusion-io Inc., LSI Corp., Texas Memory Systems Inc. and Viking Modular Solutions、これらの会社すべてが、PCIe半導体製品を販売している。ストレージのように提供されてはいるが、ホスト型半導体ストレージの動きは、キャッシュの動きに非常によく似ている。SANの前に配置されているため、読み込み処理に、ネットワークのレイテンシー(遅延)を回避する上で有利に働く。ストレージ・ベンダーが提供する機能にもよるが、自動ストレージ・ティアリングを使えば、データを事前に半導体ストレージに配置しておくことも可能だ。ホスト型のマイナス面としては、ホストの障害にひきずられる、という点である。そのため、ストレージ管理者は、PCIe半導体ストレージがRAIDやミラーリング、クラスタリングによって正しく保護されているかを確認しておく必要がある。

 

EMCもこの市場に参入し、同社のPCIeホスト型ストレージ製品としては初めてのものになる"Project Lightning"を発表した(2011年後半販売開始予定)。この製品は、EMCのFully Automated Storage Tiering (FAST)からフルにアクセスすることが出来、SAN上のEMCのストレージ装置とシームレスな連携が出来るようになっている。最初の製品は、寿命、パフォーマンス、デバイスの信頼性を最大限にするために、SLCをベースに作られる。

 

 

 

 

ソフトウェアがパフォーマンスと寿命の鍵

 

ほとんどの半導体ストレージ・ベンダーが、自社のストレージ装置にとってソフトウェアこそが重要である、ということに同意するだろう。LSIは、特定のブロックへの書き込みを管理する事によって読み書きの最適化を行うように設計されたソフトウェア、MegaRAID CacheCade 2.0を販売している。CacheCadeは、LSIのMegaRAID SSDコントローラーがSSDデバイスまたはHDDのストレージアレイと組み合わせて使われるとき、それを補完する役目を果たす。

 

HPもLSI同様、同社の3PARストレージアレイにおける半導体のパフォーマンスを最適化するために、データの格納場所のアルゴリズムに注力している。同社は、通常であれば徐々にパフォーマンス低下が起こる事を回避する最適化アルゴリズムを宣伝している。Avere Systems Inc.やNetApp Inc.など他のベンダーは、書き込み処理のバッファーおよび管理のために、不揮発性ランダム・アクセス・メモリー(NVRAM)を使っている。全ての書き込み処理は、最適な書き込みパスを見つける独自のソフトウェアによって管理されている。

 

最近Fusion-ioに買収されたIO Turbine Inc.は、複数のVMware仮想マシン(VM)にたいしてSSDを供給できるAcceklioというソフトウェアを開発した。複数のVMが、Accelioを使うことによってSSDまたは他のフラッシュ・ストレージを共有することができる。Accelioは仮想環境において、どのSSD/フラッシュ製品とも組み合わせて使うことができ、VMwareのvMotionとの連携機能も持っている。

 

 

 

データベースパフォーマンスの向上

 

ほとんどのストレージ管理者が、SSDが提供する読み込み処理の驚異的な速さと、読み込み負荷が高いアプリケーションを使っているデータベース環境にとってSSDが理想的であることを認識している。この理解のもとよくあるのが、データベースのインデックスがをSSDまたはフラッシュ・ストレージに入れ、高速検索を行った後、実データを持ってくるために次はHDDにアクセスする、というパターンだ。しかし、容量の増加と半導体ストレージ装置の値ごろ感から、いくつかの企業ではデータベース全体をSSDに入れて、データベース全体の機能を大幅に高速化することに成功している。

 

カリフォルニア州ジャクソンのJackson Rancheria Casino & Hotelは、Dell EqualLogicディスクアレイ、Fusion-io PCIe型半導体ストレージ、IO Turbine Accelioソフトウェアの組み合わせで、データベースのパフォーマンス検証を行ってきた。(Jackson RancheriaはAccelioのベータ・テストサイトである。)このカジノは300GBのMicrosoft SQL Serverデータベースを使って、非常に読み込み負荷の高い、ゲームシステムを動かしている。サーバーの約80%が、VMware ESXを使って仮想化されている。

 

Jackson Rancheria Casino & Hotelのシニア・システムマネージャー、Shane Liptrapは素晴らしいテスト結果をこう語る。「Accelioの初期設定はわずか1時間くらいで終わりました。VMwareのリソースプールを作るのに似ていましたね。明らかにパフォーマンスが良くなったのが分かります。150GBのFusion-io SSDを使った場合、読み込みのレイテンシーは60%減りました。320GBのFusion-ioフラッシュ・カードでは、レイテンシーの減少は90%でした。」この構成はSANの負荷を軽減するので、彼はこの構成が本番に移行したとき、信頼性とフェールオーバーの改善の他に、レスポンス速度の向上にも期待している。

 

 

キャッシュ・ティア

 

いつくつかのベンダーは、半導体ストレージを自社のディスク・ストレージに「キャッシュ・ティア」として追加する動きを強めている。これはティア0とも呼ばれているが、独立したストレージ・ティアとキャッシュの境界線は、次第に薄れてきている。NetAppは特にこの方法に力を入れているが、先頃、製品の新機軸として同社のFlash Cacheに重複排除機能を追加した。NetAppは重複排除により、容量の使用率は最大で10倍に上がる、と謳っている。VMイメージもFlash Cacheの重複排除を使えば、容量の使用率は3倍から4倍に上がる、という。重複排除を加えることによって、Flash Cacheを増設する際の経済性は向上する。

 

HPの3PARストレージアレイは、同一筐体の中でSSDとファイバー・チャネル(FC)HDDのティアをシームレスに融合している。ニュージャージー州ジャージーシティのマージド・サービス・ベンダーDatapipe Inc.は、顧客の様々な要求に応えるために3PARストレージアレイを使用している。Datapipe Inc.は、より高いI/Oパフォーマンスを必要とする顧客に付加価値のついたオプションとしてSSDを提供している。「SSDは高価です。だから、その値段に見合っただけのものでないとお客さんは納得しません。」Datapipe Inc.のストレージ管理部門ディレクター、Sanford Cokerはこう語る。可能であれば、サーバー型フラッシュ・メモリーがお薦めだという。Cokerは、金融、調剤からニューメディア、クラウドにいたるまで、様々な業種に幅広く対応するために、多くの場合、データベース・アプリケーション用にSSDを導入することになるだろう。

 

Dataram Corp.は、44年間RAM製品の会社として非常によく知られているが、XcelaSANアプライアンスによるキャッシュ・ティアリングの販売を促進する会社のうちの一社でもある。このキャッシュ・ティアリング装置の使い方の一つが、既存のシステム構成にI/O容量を追加する事である。ユーザーは、少容量のSSDを追加するだけで高価なティア1やティア2ストレージへのアップグレードを回避できるとDataramは考えている。しかも、SSDとSATAの安価な組み合わせによって、トータルでFCストレージと同様のI/Oおよび容量を提供できると謳っている。

 

 

ブートストーム

 

ネットワークストレージを使った優れたアプリとして、仮想デスクトップインフラストラクチャー(VDI)のサポートがある。VDIは、多数のユーザーがシステムを起動する時間帯に「ブートストーム」を起こす。このとき動いているのは、純粋に読み込みのアプリケーションだけであるため、非常に高速のI/Oパフォーマンスを持つSSDには持ってこいだ。

 

 

データロケーションとハイブリッドクラウド

 

半導体ストレージの技術は、距離によるデータ・アクセスのレイテンシーを減らすために、データをユーザーの近くに置く場合に使われる。この場合、PCIeカードやではなくSSDアプライアンスを使うか新たにティアを追加する事が多い。Avere SystemsのFXT SSDアレイに入っているDemand-Driven Storageアーキテクチャーは、このようなケースで導入される製品の一例である。FXTアレイは中央集中型のデータセンター、プライベートクラウド、あるいはハイブリッドクラウドで使用することができる。これらのアレイ装置は、データの整合性を保証するAvereのティアード・ファイル・システムにより、分散しつつ高い可用性を提供することができる。

 

自動ティアリング・ソフトウェアはワイド・エリア・ネットワーク(WAN)越しであっても、自動的にティア間のデータ移動を行う。そのため、最も頻繁にアクセスされるデータは、最も要求の発生度が高い場所へと移される。

 

この使用事例にぴったり当てはまるアプリケーションのひとつが、オン・デマンドのビデオ・ストリーミングだ。Datapipeはいくつかの顧客のためにこの種のアプリケーションをサポートしている。「新作のビデオが出てくると、アクセスが集中します。これらのビデオを半導体ティアに引っ張り上げることによって、我々は以前より短い時間で、遙かに多くのデータ要求に応えられるようになりましたし、当然、ユーザーも満足ですよ。」DatapipeのCokerはこう言う。

 

 

総半導体ストレージ

 

コストがとんでもなく高くなるだろうとの想像から、ストレージ基盤を全て半導体にすることを考える人は多くない。Nimbus Data Systemsはこの認識を変えたいと思っている。Nimbus社はeMLCフラッシュ・メモリーをベースにした装置を自社で設計し、前述したように5年間の保証付きで販売している。しかし、すでに市場における地位を確立している既存ストレージ・ベンダーの製品に対して総半導体製品を比較の対象にするには、その製品をサポートするソフトウェアが伴っていることが必要だ。Nimbus社の製品には、ストレージOS、RAID、重複排除、スナップショット、シン・プロビジョニング、レプリケーション、ミラーリングが付いてくる。Nimbus社は、同社のシステムは1万5千回転のHDDシステムと比較して、必要な電源、冷却装置、ラックスペースを最大80%減らすことができる、としている。総半導体ストレージ基盤が、ニアラインすなわちアーカイブストレージの大容量HDDに取って代わることはないだろうが、高I/O負荷が掛かるアプリケーションでは正しい選択になるかも知れない。

 

 

 

ハードディスク進化のアンバランス

 

ここ数年の間、ハードディスク技術は記録密度の分野において長足の進歩を遂げ、GBあたりの単価を描く曲線は下がり続けた。しかし、ハードディスクのI/Oスループットは、同じ期間に以前よりはるかに高速になったサーバーやネットワークについて行っていない。データ・アクセスの要求が増えるのに伴って,アプリケーションのI/O負荷も増えている。いくつかの事例では、ストレージ管理者は、アプリケーションの要求に対応するため、本来必要でない容量を増設することによって、I/Oスループットを大きくしている。この不要な容量は、大容量ディスクの経済性を劇的に低下させる。

 

とはいえ、半導体ストレージは万能薬ではない。「半導体ストレージには沢山長所がありますが、全てを解決してくれるわけではないのです。やはり、良いシステム設計に優るものはありません。アプリケーション・オーナーは、SSDとHDDを正しくチューニングし、的確な組み合わせになるようにストレージ・プロバイダーと連携することの必要性を認識すべきです。それと、我々はSSDが使うにつれ、だんだんと遅くなる傾向があることに気づきました。SSDを管理し、再フォーマットするという方法もありますが、どこかの時点ではSSDを取り替えてしまう、という判断も必要です。HDDを管理するのとは、やり方が違うのです。」DatapipeのCokerはこうアドバイスする。

 

半導体ストレージは、GB単価ではHDDより高価だが、I/O単価の面では大幅に安くなる。IT管理者は、経済性の分析においてI/Oあたりの単価について検討するべきだ。これに、消費電力や冷却要件の低さを加えれば、TCOはアプリケーションの高速化について理解を示すかもしれない。IT管理者は、SSDがHDDのようなコスト曲線を描くものだ、と期待してはいけない。SSDは基本的にメモリー製品なので、メモリーのコスト曲線を追随するのだ。eMLCは先端的な技術なので、半導体ストレージをより魅力あるものにし、データセンターやクラウドでの適用も広がるかもしれない。

 

 

著者略歴:Phil Goodwinは、ストレージ・コンサルタント兼フリーのライター。

 

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