プライベートストレージ・クラウドを構築する(後半)
著者:Phil Goodwin
Storage Magazine 2011年7月号より
プライベートストレージ・クラウドの構成要素
IT部門であれば、どのようなシステムの組み合わせに対しても、参照アーキテクチャーを開発することができるだろうが、NetAppのFlexPodのような設定済みのシステムを利用することも可能だ。FlexPodは、VMwareコンポーネント、Cisco Unified Systemブレードサーバー、Nexusスイッチング・コンポーネント、NetApp FASストレージから構成される、事前に最適化され 、設定されたシステムである。このシステムは、既存システムの仕切り直しであり、他ベンダーのストレージが入らないため、新しいアプリケーションのデプロイメントや技術の一新にうってつけだろう。このシステムは、製品を構成している3つのベンダーが暗黙のうちにコンフィグレーションをサポートし、ファームウェアのレベルを同期してくれるので、技術サポートの手間を省いてくれる。
現行の様々なシステムをプライベートストレージ・クラウドに統合したいと考えているユーザー向けに、日立データシステムズのVirtual Storage Platform(VSP)ストレージ・コントローラーは、他ベンダー製の多種多様のストレージと直接接続が可能になっている。この製品は、異機種のストレージをまたいで、標準化された(日立の)ツールセットだけでなく、ヘテロジニアスな仮想化のメリットを提供している。このような取り組み方は、現行機器への投資を失うことなく、多様なシステムを標準化されたコンフィグレーション に移行するステップとして有効である。
ストレージクラウドをソフトウェア側から見る
標準化はソフトウェアの側からも促進できる。たとえばシマンテックは、複数のハードウェアシステムを共通化して使用することを可能にするソフトウェアスタック を提供している。同社のStorage Foundation製品には、ファイルシステム、ボリューム・マネージャー、OS をまたぐデータ移行製品が入っている。シマンテックのVeritas Operations Managerと最近発表された(リリースはまだ行われていないが)Veritas Operations Manager Advancedは、仮想サーバーとストレージ環境にまたがるシングルポイントの管理を提供すると表明している。この製品には、ストレージ環境の可視性(ビジビリティ )とレポートのためのストレージ・リソース管理(Storage Resource Management: SRM)の機能が含まれている。中でも、SRMアプリのレポートおよび測定機能は、企業がストレージ提供 のコストを判断する事を可能にしてくれる。これにより、コストコントロールの根幹であるサービスへのチャージバックが楽に行えるようになる。いくつかの企業では、実際にはサービスへのチャージバックはしないが、コストとサービス提供の事実関係を明らかにし、それをIT部門、ユーザー部門、経営層へ説明するために、このチャージ機能を使っている。
F5 Networks Inc.は、おそらくIPロードバランサーとしてはよく知られた会社だが、現行の基盤をクラウドに統合する事にたいして、他社とは少し違う考え方を提案している。F5の考えは、よりアプリ寄りだ。同社のDynamic Services Architectureは、アプライアンスを使ってデータ分類サービスを提供し、データが要求されたサービスレベルで提供されるように、データの適切な配置を支援する。これらのアプライアンスは、データを動的に適切なストレージティアまたはデバイスに移動させる。
アプリの評価
実際の話として、アプリケーションの分類は、クラウドサービスの適切なデプロイメントにとって、決定的に重要な意味を持つ。サービスレベル要件と納入仕様書を含む、会社のアプリケーション・カタログを維持管理することは、成熟した運用手順のひとつである。これは、あらゆるクラウドのデプロイメントに必要だ。アプリケーションの中にはプライベートクラウドよりもパブリッククラウドに向いているものもあるからだ。
アプリケーションを仕分ける最も明快な方法は、会社に対するそれらのアプリケーションの戦略的重要性を検討することだ。アプリケーションは、汎用的な ものか、高い価値のものか、に分けることができる。汎用的なアプリケーションは重要ではあるが、市場では競争上の優位性をもたない。一方、高い価値のアプリケーションは、その部分における優位性を持っている。
この違いをよく理解するために、バックアップとリカバリを考えてもらいたい。あらゆる会社がデータ保護を必要とするが、そのことは、市場における競争上の優位性にはつながらない。非常に大がかりな バックアップとリカバリのシステムを持っている会社が 、自社の製品にその分を上乗せする訳にはいかないし、自社のバックアップの優れた能力によって、自社製品の需要を高めることもできない。このように、バックアップとリカバリは、ひとたび運用条件を満たすことが確認されれば 、あとはコストを最小限まで切り詰めるべき一業務である。このことにより、バックアップとリカバリは、汎用的なアプリケーションであり、パブリック・クラウドサービスの理想的な対象になる。Emailとコンタクト・マネジメント の二つは、これ以外の必須だが非戦略的なアプリケーションである。
それとは対照的に、戦略的アプリケーションは、企業を競合他社から差別化してくれる。ユニークな製造過程や製品設計システムがその例となるだろう。これらのケースでは、システムが、ユニークな機器や特殊な設定の機器やOSなど、パブリッククラウドの設備では普通見られないようなものに依存していることがままある。これらの技術的な理由から、戦略的アプリはクラウド・アウトソーシングの候補にはなり得ない。さらに、防衛や他の機密の環境に関連するような、安全保障のシステムは、決して外部に置くことができない。とはいえ、これらのシステムは標準化と運用業務の改善による恩恵を受けることは可能であり、従って、プライベートクラウドの対象にはなり得るのである。
EMCはSymmetrix VMAX アーキテクチャーを柱として、プライベートクラウドのデプロイメント用に標準化基盤を提供している。さらに、同社はアプリケーションの分類のための、ユニークなフィルタリング・モデル を持っている。このフィルタリング・モデルは、EMCのコンサルティング部門が、企業のプライベートストレージ・クラウドへの移行を支援する際に使われている。
このフィルタリング・モデルは、エコノミック・フィルター 、トラスト・フィルター 、ファンクショナル・フィルター を規定している。例えば、アプリケーションはエコノミック(経済的な)指標、トラスト(信用度)要件、ファンクショナル(機能)要件を持っており、これらは個々のクラウド・アーキテクチャーによって、改善されたり、阻害されたりする可能性がある。アプリケーションをフィルター解析の結果でマッピングすることにより、EMCはアプリケーションが、プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、単に既存環境に残すか、のうちどれに一番適合しているかを分類する。いかなる企業といえども、全てのアプリケーションをクラウド環境に移すことはできないわけであり、EMCの方法論は、アプリケーションを分類し、優先順位を決めるのに役に立つ。
過熱する広告、しかし希望も
プライベートクラウドに関する熱狂的な記事を見ると、従来の業種固有の開発は達成不可能な利得のように思えてくる。そして、ベンダーのうたい文句によると、発注さえすれば成功はすぐそこにあるように聞こえる。データセンターのストレージシステムからプライベートストレージ・クラウドへの移行は、まず、標準化された運用基盤に基づく規律正しい作業から始まる。それを、何と定義するか。ユーティリティストレージ、クラウドストレージ、単なる基盤改善…。どのように呼ぼうと、ユーザーが気にするのは、名称ではなくより良いサービスなのだ。
著者略歴:Phil Goodwin はストレージのコンサルタント兼フリーランス・ライター。
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