ストレージ仮想化:準備はOK?
著者:Eric Slack
Storage Magazine 2011年8月号より
ストレージ仮想化の導入は、初めの頃発生していた実装に際しての障害がおさまるにつれて、勢いがついてきた。ストレージ仮想化を筐体に入れるか、ネットワーク上に展開するか、どちらにしても市場には成熟した製品の豊富な選択肢がある。
ストレージ仮想化の定義については議論の余地があるかもしれないが、一般的には、物理位置をユーザーに見せることなく、データ・ストレージ容量の柔軟で論理的な手配を実現する技術と考えられている。論理容量に対するI/Oリクエストをキャプチャーして 、正しい物理位置にマッピングする。
ストレージ仮想化の最も基本的な実装は、ホスト・レベルでの実装だ。ホストでは論理ボリュームマネージャーがアプリケーションとユーザーに対して、ストレージ容量のシンプル・プロビジョニング を行っている。ブロック・ストレージ仮想化は、LUN管理が複雑なことと、特にマルチユーザー環境での柔軟なストレージ・プロビジョニング要件のために、ファイル・ストレージ仮想化に比べより広く実装されている。 この記事は、ホスト・レベルではなく、ネットワークとストレージ・デバイス・レベルでのストレージ仮想化技術を取り上げる。
グループ、LUN、パーティショニングにさようなら
アレイ・グループの作成、LUNの割り当て、ボリュームのパーティショニング、これらのレガシーな作業は、ストレージを使えるようにするために行う方法としては、複雑で非効率的である。特に、ディスク・シェルフ間の物理ディスクのパフォーマンスや信頼性のバランスが絡む時、このことが顕著に表れる。同様に、既存ホストのボリュームを拡張するのも、LUNをコンカチネートしデータをコピーする時間のかかる作業である。ストレージの仮想化は、大部分の判断をストレージ・システムの「頭脳」に任せることにより、時間とリソースの無駄を減らしながら、アプリケーションとサーバーのストレージ・プロビジョンの要求に対応する、優れた方法である。この方法は、シン・プロビジョニングのような技術に対応しつつ、人間のヤマ勘による割り当てに替わって利用効率を向上させることができる。
初めの頃、(ストレージ)仮想化はストレージを効率的に配備、管理するためのツールに過ぎなかった。しかし、ホストを物理ストレージから切り離すことにより、仮想化の技術は、異なる物理筐体(メーカーが違っていても)のストレージ容量を共有プールに論理的にまとめ、より容易な管理を可能にした。これら異機種混在のシステムは、現存する一台のどんな物理ディスクアレイよりも大きなボリュームを作成するのに使われることもあるが、最も多い使われ方は、共通管理プラットフォームとしてのストレージ仮想化である。これにより、既存のストレージに新たな目的を持たせ、複数のストレージサイロを管理する事で発生するオーバーヘッドを減らすことが出来るようになった。ただし、物理ディスク・システムは依然として保守が必要である。
ホストのボリュームは、すぐに多数のディスクを横断して展開してしまい、容量の利用に悪い影響を与えかねないため、仮想化によってパフォーマンスを改善することができる。仮想化はまた、古いデータをアーカイブ用アプライアンスに、あるいは、頻繁にアクセスがある データベースのインデックスを半導体ディスク(SSD)キャッシュに移すような、ストレージ・ティアリングやデバイス間のデータ移動を可能にする。これらの処理は、ホストやアプリケーション、あるいはファイル・レベルで設定されたポリシーに基づいて実行されるのが一般的だ。このデータ移動と同じ仕組みは、災害復旧(DR)の目的でデータをオフサイトに移動するのに使うことができる 。
|
デバイス型仮想化
ディスク・シェルフがコントローラーと分かれている従来のスケールアップ・アーキテクチャーでは、ストレージ・デバイス・レベルの仮想化は一般的に、コントローラーのOSに組み込まれている。デバイス型仮想化は、現在のストレージが持ちうる限りの容量、数十、数百テラバイトを供給する実行可能なソリューションを、標準機能として必ず備えている。ほとんどのシステムが、異なるストレージタイプ(パフォーマンスが高いディスク、容量の大きいディスク、SSDなど)と異なるRAIDレベルを使って、単一の仮想化システムあるいは別々のシステムの中に、ストレージ・ティアを作成する機能を持っている。いくつかの製品は、ポリシー・エンジンと、ティア上のファイルやサブ・ファイルのデータブロックを、活動 履歴、アプリケーション、その他に基づいて移動する機能を持っている。ほとんどの製品 において、データを高可用性のために2番目の筐体にコピーすることやDRのために遠隔地の待機系システム へ移動することが可能だ。大多数のストレージ製品が仮想化機能を持っているにもかかわらず、ほとんどが他社のストレージをサポートしない。異機種混在の仮想化ソリューション用途で、異なるベンダーのストレージ・システムを統合できるものとして、最も選択肢が多いのは、ネットワーク型の仮想化である。
ネットワーク型仮想化
数年前、ストレージの世界で一般的に受け入れられていた通念とは、仮想化と同じように、ストレージ・サービス 、あるいは一部のストレージ制御は、結局、ストレージ・エリア/・ネットワーク(SAN)上の「スマート・スイッチ」で行われるようになるだろう、というものだった。ストレージ仮想化の一部はその方向に向かっているが、ストレージ仮想化技術のネットワークへの実装は、通常はアプライアンスという形を取って行われてきた。これらのアプライアンスは、本質的に、ディスクアレイやストレージ・システムと接続したストレージ・コントローラーか、ユーザーが提供したサーバーや仮想マシン(VM)上にインストールしたソフトウェアである。ストレージ仮想化アプライアンスは、異機種のストレージに直接、または、ファイバー・チャネル(FC)かiSCSI SAN経由でつながるが、ほとんどが、自分のディスクも使えるというオプションを提供している。ほとんどの製品が、ファイル共有、スナップショット、データ重複排除、シン・プロビジョニング、レプリケーション、継続的データ保護(CDP)などのストレージ・サービスの機能を持っている。
インバンドとアウトバンド仮想化
ストレージ仮想化技術が誕生してまもなく、2つのプライマリー・アーキテクチャーが登場した。インバンドとアウトバンドの仮想化である。インバンドの実装では、ユーザーと物理ストレージあるいはSANとの間にコントローラーを配置した。アウトバンドの製品では、ネットワーク上に配置されたメタデータ・コントローラーが、ストレージ・リクエストを物理ロケーションに再マッピングしたが、実データは扱わなかった。このことは、処理を複雑にしたが、インバンド仮想化に比べてCPUの負荷は減った。アウトバンドのストレージ仮想化はまた、インバウンド機器の撤去に伴うサービスダウンの可能性を取り除いてくれる。撤去の時、ストレージが再マッピングされている間、ユーザーは自分のデータから切り離されるからだ。現在、ほとんどのネットワーク型仮想化は、インバンド・アーキテクチャーを使っている。おそらくは、ストレージ仮想化が最初に登場したときに比べ、CPUパワーが相対的に潤沢にあるのがその理由だろう。インバンド製品の人気のもう一つの理由は、実装の容易さである。これは、市場にリリースする時間の速さと問題の少なさを意味する 。
|
ストレージ仮想化製品
仮想化はストレージ・プロビジョニングに必須の機能となり、ほとんどの中規模、大規模ストレージに何らかの形で入っている。ストレージ・アレイや仮想化技術には多くの違いがあるものの、大多数のデバイス型の製品が、他メーカーのディスク容量 をサポートしない。これら多数のストレージ製品をリストアップする替わりに、異機種混在が可能なストレージ製品という、より小さなカテゴリーに焦点を絞ろう。以下に、様々なベンダーから販売されている、ハードウェアやソフトウェアに実装される異機種対応のストレージ仮想化製品を挙げる。
DataCore Software Corp SANsymphony
この製品は、ネットワーク型のインバンドソフトウェア製品で、一般的な x86サーバー上で稼働する。異機種のストレージ機器をFC、Fibre Channel over Ethernet(FCoE)、iSCSI経由でサポートし、ホストにはFCまたはiSCSIストレージとして接続する。容量拡張と可用性の確保のために複数ノードのクラスターを作成することができる。リモート・レプリケーションや同期ミラーリング、CDP、シン・プロビジョニング、ティアード・ストレージのようなストレージ・サービスの機能を持っている。
アウトバンドのソフトウェア製品で、一組のサーバー(Control Path ClusterまたはCPCと呼ばれる)上で稼働し、BrocadeまたはCiscoの「インテリジェント・スイッチ」とやりとりを行う。ストレージおよびホスト・サーバーへの接続はFC経由で、ほとんど全ての大手ベンダー製のストレージを仮想化できる。Invistaは、ストレージ・アレイ間のミラーリング、レプリケーション、ポイント・イン・タイム・クローンの機能を持っている。
FalconStor Software Inc. Network Storage Server (NSS)
ネットワーク型のインバンド・アプライアンスで、異機種のストレージとiSCSI、FC、InfiniBand経由で接続、ホストとはFC、iSCSI経由で接続する。複数のコントローラー・モジュール と接続することによって、拡張性と高可用性を提供している。WANに最適化されたレプリケーションの他、同期ミラーリング、シン・プロビジョニング、スナップショット、クローンの機能を持っている。
Hitachi Data Systems Universal Storage Platform V (USP V)
ティア1のストレージ装置だが、インバンド、異機種接続でほとんど全ての大手ベンダー製のストレージに接続する。内部および外部に接続したストレージのシン・プロビジョニング機能を始め、ティア1ストレージ製品として求められる機能を備えている。
IBM SAN Volume Controller(SVC)
ネットワーク型のインバンド仮想コントローラーで、SAN上に置かれてiSCSIまたはFC経由で異機種ストレージと接続する。SVCをペアにすることにより可用性を確保し、帯域幅と容量の拡張のために8ノードまでのクラスターが可能。各SVCモジュールは、ストレージ・システム間のレプリケーションやローカルまたはリモートのSVCユニットとのミラーリング機能を持っている。
NetApp Inc. V-Series Open Storage Controller
インバンドの仮想化製品で、NetAppファイラー・コントローラーに非常に似ているが、異機種のストレージがサポートできるように設定されている。求められる分全ての既存のLUNを統合するためにバックエンドからFC SANに接続されており、通常のNetAppファイラーと同じように、ブロックまたはファイル・プロビジョニングでこのNetAppのLUNにプールする。
Engenio Storage Virtualization Manager (SVM)
NetAppが最近買収した、ネットワーク型のインバンド仮想コントローラーで、異機種ストレージをサポートする。NetAppがこの製品をどのように販売していくか、詳細はまだ発表されていない。
取扱注意
ほとんどのストレージ仮想化性製品はインバンドであるため、仮想化アプライアンスまたはクラスターの実際上のパフォーマンスに注意を払って貰いたい。容量の拡張においては、ここが入り口の役割を果たすからだ。さらに、ストレージ/サービスや機能は、CPUサイクルを消費し、実際に使える容量も減らしてしまう。
ストレージ仮想化は、容量の使用効率やパフォーマンスを改善することによりCAPEX(資本支出)を減らすための強力なツールである。しかし、実は最も大きな恩恵はOPEX(運用コスト)の方にあるかも知れない。ストレージ仮想化は、プラットフォームの違いをも超えてストレージ管理を簡単にし、管理のオーバーヘッドを減らす。仮想化はまた、ストレージ ・システムのダウンやユーザーの混乱を起こさずに、ストレージの拡張を比較的に単純なオペレーションにしてくれる。
著者略歴:Eric Slack はStorage Switzerlandのシニア・アナリスト。
Copyright 2000 - 2011, TechTarget. All Rights Reserved,
*この翻訳記事の翻訳著作権はJDSFが所有しています。
このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。