ストレージの保護とリカバリの改革

著者:Tony Asaro
Storage Magazine 2011 年5 号より


IDC によれば、2009 年から2014 年までの新規ファイルストレージ訳註*1の増加は、およそ 160.35 エクサバイト (EB)になるものと見られている。これは、データベースやemail など、 その他のデータタイプ全てを合わせた同時期の増加量の約300%以上である。このようなタ イプのファイル増加により、様々な問題が派生してくるが、その中でデータ全体をどのよ うに保護するのか、というのも大きな問題だ。ファイルストレージの膨大さの前で、従来 のデータ・バックアップのやり方は、もはや実用的ではなくなって来ている。

 

多くの場合、IT のプロフェッショナルは2TB 以上のファイルシステムを作らない。デー タ・セットが大きくなり過ぎるのを嫌うからだ。これが意味するところは即ち、1 ペタバイ トのNAS ストレージを持っていたら、少なくとも500 のファイルシステムをバックアップ しなければならないことになる。世の中には、何千ものファイルシステムを持つ会社もあ る。時とともに、そのような状況はますます普通のことになってきている。

 

市場はともすれば、大容量ファイルシステムをもてはやしがちだが、実際のところ、そ の保護は難しい。もし、100TB の容量のファイルシステムを持っているのだとしたら、フ ァイルシステム全体をバックアップするのは、極めて難しくなる。これは、フラットな名 前空間を持つ、オブジェクトベースのストレージシステム訳註*2 でも同じ事が言える。これ らの製品を供給するベンダーは、多くの場合、バックアップではなくディスクへのレプリ ケーションを推奨している。しかし、レプリケーションではデータの復旧が厄介だ。問題 になるのは、ほとんどのストレージベースのレプリケーション製品はブロックベースで作 られており、ファイル単位でデータを戻そうとしたとき、有効な方法が皆無である、とい うころだ。そして、たとえファイルレベルのレプリケーションに対応している製品があっ たとしても、それらは、ユーザーが戻したいファイルを探し出して戻す、という復旧アプ リケーションを持っていない。ファイルストレージが増えるにつれて、一つのファイルを 探し出すのは、干し草の山の中にある1 本の針を探すように難しくなっていく。

 

ブロックベースのレプリケーションは、これまで、バックアップの代替にはならなかっ たし、今後とも決してなることはないだろう。これには、いくつかの理由がある。ストレ ージベースの製品は、ベンダー独自の企画に基づいているため、データ保護のための汎用 的な方法を提供できない。さらに、これらの製品は一般的に、単一のストレージシステムとバンドルされた形で提供される。つまり、これらの製品はストレージシステムと一緒に バラバラに存在するのだ。100 台のNAS システムを持ったとしたら、全てのシステムのリ モート・ミラーリングを管理するのは悪夢だろう。この方式は通常、有償オプションであ ることが多く、費用も嵩む。保守費用は増え、レプリケーションは、得てして高価な、同 一ベンダーのストレージに行わなければならない。おそらく、最も重要なポイントは、特 定のファイルを戻すことは、不可能とまでは行かないまでも、極めて困難な作業になる、 ということだ。リモート・ミラーリングは、粒度の高い復旧には向いていない。この方式 は、それよりも、全体のシステムを復旧するのに適しているのだ。

 

より優れたスマートなアプローチは、以下の機能を持ったインテリジェントなファイルレ ベル・レプリケーションによるものだ。

 

どのファイルシステムからでもデータをレプリケートできる機能
全体システム、個々のファイルシステム、ディレクトリおよびサブディレクトリをフ ァイルレベルでレプリケートできる機能
ユーザーが探しているものを効率良く見つけ出すための、サーチおよび復旧機能が提 供されていることは必要不可欠
ファイルシステムをスキャンして変更、追加を調べ、それらのみをレプリケートする 機能
ディスカバリー、レプリケーション、サーチを高速で行いながら、ペタバイト環境ま での拡張ができることは必須

 

Digital Reef Inc.という会社のソフトウェアは、上記の機能を全て備えている。ところで、 データのレプリケートする先のストレージとして、低コストかつ管理が容易なものを見つ けておくことも重要だ。HP Ibrix、IBM SONAS など、この要求を満たすスケールアウト・ ファイルストレージは数多くある。EMC Isilon は実際のところ低コストの製品ではないが、 なかには、この製品がティア1 のNAS より価格なりに魅力的だと感じさせる構成もある。 Dell Exanet も、オプションとしてこのティアで利用できる製品だ。Symantec ファイルシ ステムに対する関心も高まっているようだ。資料で見る限り良さそうな製品だ。オープン ソースのファイルシステムも数々の製品がある。Gluster、Hadoop、そして忘れてならな いのがZFS だ。ZFS はスケールアウト製品ではないが、Gluster を前面に置くことによっ て、その機能を提供できるようになる。ただし、オープンソースを使うときは大抵、ユー ザーからの要求の面倒を見る、という作業が発生する。

 

投資の回収は重要だ。いくつかのケースでは、ファイルシステムのバックアップを一挙に止めることもできる。ファイルバックアップを無くすことで、基盤やリソースにそのよ うな影響がでるのか、よく検討しよう。ストレージベースのミラーリングへの依存を減ら し、このソリューションにかかるコストと管理工数を最小化することもできる。基幹系の ファイルに対してはリモート・ミラーリング技術を残し、それ以外のファイルに対しては、 低価格で拡張可能なストレージ・ティアへのファイル・レプリケーションを利用しよう。

 

世界は変化しているが、我々はいまだにファイルデータを管理するのに、同じツールを 使っている。これでは、現場に対応できないし、システムを維持していくこともできない。 あなたが、無制限の予算と果てしないフロア、四六時中発生するトラブルの火消しをしな がら退屈な日常業務を遂行することを厭わない、有能な人々が沢山いるところに勤めてい るのなら、話は別だが。

 

 

著者略歴:Tony Asaro はVoices of IT の創設者兼シニア・アナリスト 。

 

*1 訳注:「ファイルストレージ」 文書や画像ファイルなど、データベースに収まらない非構造化データ を格納するファイルベースのストレージ

 

*2 訳注:「オブジェクトベースのストレージシステム」 ファイルストレージとは異なり、オブジェクトという 単位で管理されたデータを格納するのに適したストレージ。なお、ファイルストレージは階層型の名前 空間で管理されるが、オブジェクトベースは階層型ではなくフラットな名前空間で管理される。

 

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