ハイブリッド・クラウドストレージ
Storage Magazine 2011年1月号より
ハイブリッド・クラウドストレージ製品は、二つのクラウドストレージの長所を実現している。オフサイト・クラウドストレージ・サービスと、強固に統合されたローカルストレージである。
サーバ仮想化が広範囲に導入された今日、クラウドコンピューティングはユーティリティコンピューティング(コンピュータ・リソースが電気のように消費され使用量に応じて課金される)へと向かう進化の一過程である。クラウドストレージはアマゾンSimple Storage Service (S3) により好調なスタートを切り、他社がすぐにそれに続いてサービスを始めた。しかし、セキュリティへの懸念とパフォーマンスの低さはしばしばクラウドストレージの利点に暗い影を投げ掛け、企業への導入の妨げとなっていた。新興企業、開発チーム、コンシューマー向けデータサービスなどが早期に導入したものの、クラウドストレージはデータセンター・ストレージの補完物となるべく目下奮闘中である。
もともと保守的な企業のIT部門はパブリック・クラウドストレージを極めてリスクの高いもの見なしてきた。しかし、今やそれが変わろうとしている。パブリック・クラウドストレージへの認識が変わったからではない。インターナル・クラウドストレージ製品やオンプレミスのデータストレージを、外部クラウドストレージに安全に拡張することができるソリューションが登場してきたためだ。クラウドコンピューティング関連製品の氾濫や企業ユーザーの関心の高まりからアナリストの予測や大々的な新聞報道に至るまで、全てはクラウドコンピューティングがひとつの転換点に来たことを示している。企業におけるクラウドストレージの導入は、これから加速されていくだろう。
クラウドストレージの定義
一つの技術が現在のクラウドコンピューティングのように流行ると、ベンダーは単純に既存製品を取り上げて、それを「クラウド」と名付けてブランドを再生したい誘惑に駆られがちだ。しかし、一般的には、SANストレージやNASが単に共有ストレージを提供しているという理由だけでクラウドストレージと考えるわけにはいかない。「SANはクラウドストレージの特徴である、必要な時と場所で割り当てられるダイナミック、フレキシブル、エラスティック(伸縮自在)というパラダイムとは全く合わない。」とエンタープライズ・ストラーテジー・グループ(ESG:本社、マサチューセッツ州Milford)のシニア・アナリストTerii McClureは語る。このことは、従来垂直的に拡大してきたSANやNASの製品について特に言えることだ。3PAR InServ Storage Serverのような自己最適化とロード・バランシング機能を持ったスケールアウト・ブロック型ストレージは、負荷を動的(ダイナミック)にSAN上に分散させることができる。スケールアウトNAS製品にはさらに様々な機能がついているが、これらの製品といえども大規模なパブリックストレージ・クラウドには適していない。
クラウドストレージと考えられる製品に必要なものは、次の5つである。
・ ネットワークを通じて利用可能
・ 共有できる
・ サービスを基本としており使用量に応じて課金
・ エラスティックで必要に応じて動的に縮小
・拡大できる
・ オンデマンドでスケールアップ、スケールダウンが可能
クラウドストレージの主な利用対象は非構造型データである。非構造型データは最も増加の速度が速く、かつ最もかさばるコンテンツであり、システム管理者の悩みの種となっている。クラウドストレージは構造型データにはあまり向いていない。構造型データは依然として従来型のエンタープライズ・ストレージ上で処理されている。
クラウドストレージの利点
非構造型データをクラウドストレージに使う利点は、ストレージ全体にかかるコストをより抑えてスタートできるという費用面での魅力である。サービス主体であるため、購入し管理運営すべきハードウェア・ストレージはなく、サービスによっては全廃とまでは行かずとも、データセンターやストレージ管理コストを大幅に削減することができる。従来は、最新テクノロジーを獲得するため、あるいは単に古いストレージの高価なサポート契約の購入を回避するために、3年から5年おきに高価なテクノロジーの更新が必要だった。クラウドストレージはこれらの更新を不要にする。
クラウドストレージは、大量の未使用ストレージを無くし100%近くのストレージ使用率を可能にする。従来のデータストレージにおいては、予想される増加量とピーク時の負荷に備えて大量の未使用スペースを持たざるを得なかった。全体としての費用節約以外に、クラウドストレージのスケーラビリティと、透過的に最低から最高までの負荷をサポートする能力は最も魅力的な特徴である。
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パブリックストレージ・クラウド
パブリックストレージ・クラウドのサービスは新規参入により急速に増え続けている。それらはAT&T、アマゾン、Iron Mountain Inc.、マイクロソフト、Nirvanix Inc.、Rackspace Hosting Inc.、他多数のサービスプロバイダーにより提供されている。サービスプロバイダーのストレージ基盤は、通常コモディティ・ドライブが直付けされた低価格のストレージノードで構成されており、ノード間のコンテンツ配信はオブジェクト型ストレージスタックによって行われる。クラウドの中のデータはインターネットプロトコル経由でアクセスされる。使われるプロトコルは、ほとんどの場合Representational State Transfer(REST)で、数は少ないがSimple Object Access Protocol(SOAP)も使われている。回復力(レジリエンス)と冗長性(リダンダンシー)は最低2ノードにオブジェクトを保存することにより実現される。使用量は月次でギガバイトあたりの料金で請求され、サービスプロバイダーによっては、データ転送量を追加で課金したりアクセスチャージを取るところもある。
パブリックストレージ・クラウドは、個々のクライアントに対してデータの隔離、アクセス、セキュリティを確保した大規模なマルチテナンシー用に設計されている。パブリッククラウドに保存されるコンテンツの種類は、変化のないノンコアのアプリケーション・データや利用可能な状態にしておかなければならないアーカイブ・コンテンツからバックアップ、DRデータまで多岐にわたる。パブリック・クラウドストレージは常に変化する動きが活発なコンテンツには向いていない。企業におけるパブリック・クラウドストレージへの一番の懸念はセキュリティであり、次にある程度ではあるが、パフォーマンスである。
インターナルストレージ・クラウド
インターナル・クラウドストレージはデータセンター内の専用の基盤上で稼働し、結果として、セキュリティとパフォーマンスの2大懸念を払拭している。その一方で、他の部分での利点に関しては、パブリック・クラウドストレージと変わるところがない。インターナル・ストレージは通常、単独のテナント用に使われているが大きな企業の中にはマルチテナンシー機能を使って部署ごとあるいは拠点ごとにアクセスを分けるところもある。パブリック・クラウドストレージのユーザーと違い、スケーラビリティ要件は控えめなため、インターナル・クラウドストレージ製品は従来のストレージ・ハードウェアに覆いを掛けたようなものになっている。良い例がHPのCloudStartである。この製品はHP BladeSystem Matrix、HP StrageWorks Enterprise Virtual Array (EVA)ファミリーのストレージ、Cloud Service Automation(CSA)ソフトウェアを組み合わせてインターナル・クラウドストレージにしたものだ。HPのCloudStartは、単独ではプライベート・クラウドストレージ製品にはなりえない。サービス主体という重要な要素が欠けているからだ。替わりに、この製品はHPやそのパートナーあるいは一般の企業が、管理が行き届き、かつ従量課金制であるクラウドストレージ・サービスを提供する際の基盤として使うことができる。
プライベート・クラウドストレージ製品の例としては日立データシステムズのCloud Service for Private File Tieringを挙げることができる。この製品は、Hitachi Content Platform(HCP)をベースになっておりユーザーのデータセンターに置かれるが、日立が所有し管理する。設置の時の初期費用以外は、ユーザーは使用量に応じて料金を払う。Nirvanix hNodeも同様に、管理が行き届き、従量課金制で、かつデータセンター内のインターナルクラウドの製品を出している。この製品にはNirvanix Storage Delivery Network(SDN)を動かしているのと同じ技術が使われている。
ハイブリッド・クラウドストレージ・モデル
インターナル・クラウドストレージはたしかにパブリック・クラウドストレージに関連する懸念を払拭してくれるが、これが非構造化データにとっての安住の地とは決して言えない。そもそもこのシステムは既存の社内ストレージ基盤を活用するために設計されたわけではない。システムがオンプレミスにあると言うことは、データセンターの不動産、電気、ラックスペース、空調が必要になる、ということだ。インターナル・クラウドストレージは専用のハードウェアで動くため、パブリックストレージ・クラウドが提供するような規模にまで拡張することは不可能だ。ほとんどの非構造型データは動きがなく使われることもあまりない。それゆえ、オンプレミスに常駐している必要は無いのだ。
ここにおいてハイブリッド・クラウドストレージが登場する。ハイブリッド・クラウドストレージは、従来のストレージ・システムあるいはインターナル・クラウドストレージをパブリック・クラウドストレージで補間したものだ。とはいえ、これをうまく利用するにはキーとなる要件が満たされていなければならない。まず第一に、ハイブリッドストレージは同種のストレージとして動作しなければならない。パブリッククラウド上のデータをアクセスしたときに起こりうる若干の遅延を除けば、透過的でなければならないのだ。動きが活発で頻繁にアクセスされるデータはオンプレミスに、動きがないデータはクラウドに、と配置する仕組みが完備されていることも必要だ。ハイブリッドクラウドにおいて、データがクラウドに移動したとき、あるいはデータがクラウドから戻ってきたとき、現下の状況を定義するのは賢いポリシー・エンジンだ。
現在、ハイブリッド・クラウドストレージを導入するには次の3つの方法がある。
・ オンプレミス・ストレージ、パブリッククラウド・ストレージ双方にまたがるクラウドソフトウェアを使う方法
・ クラウドストレージ・ゲートウェイを使う方法
・ アプリケーション開発を行う方法
ハイブリッド・ストレージクラウドのソフトウェア
カスタム・インテグレーションやゲートウェイ無しで、インターナル・クラウドストレージとパブリック・クラウドストレージを組み合わせて、異機種が混在する単独のストレージクラウドにするには、現在のところ、インターナルとエクスターナルのストレージクラウドで同一のクラウドストレージ・ソフトウェアを走らせる以外方法がない。Storage Networking Industry Association(SNIA)のクラウド管理インターフェース(CDMI:Cloud Data Management Interface)などにおいて標準化への動きが進んではいるが、標準規格が無いために異機種ストレージクラウド間の革新的なインテグレーションは足止めを食らっている状態だ。クラウドのソフトウェア・ベンダーが、一般企業やサービスプロバイダーにハイブリッドクラウドの前提条件を満たすべく、自分たちの製品を販売するのを見かけるのはそのためだ。また一部のクラウドストレージ・プロバイダーは、ストレージスタックを自分たちのパブリック・ストレージクラウド・サービスと簡単に統合できるインターナル・ストレージクラウドとして販売している。
後者の例として挙げられるのがNirvanixである。つい最近まで、Nirvanixが提供するサービスはパブリッククラウドだけだったが、Nirvanix hNodeインターナル・クラウドストレージの発売によって、ユーザーはNirvanixクラウドストレージを社内で動かし、必要に応じてNirvanix Storage Delivery Networkクラウドストレージでそれを補完することができるようになった。
RackspaceはCloud Filesをパブリック・クラウドストレージ・サービスとして販売してきたが、現在はオープンソースのCloud Filesを持ちOpenStack.orgを立ち上げて標準化を推進している。設立の意図は、サービスプロバイダーと企業ユーザー間、およびRackspaceのパブリック・クラウドストレージサービス間でハイブリッドクラウドを実現することである。
最近まで、クラウドストレージ・サービスプロバイダーは、LusterやMogileFSなどのオープンソースのクラウドストレージ製品を、製品特有の癖や制約に耐えながら使うか、自分たち独自のソリューションを開発するしかなかった。しかし、この2、3年でクラウドストレージ・ソフトウェアは何社かのベンダーから市販製品として、企業・サービスプロバイダー双方に市販されるようになった。
市販製品のなかで、EMCのAtmosは最も有名な製品である。ソフトウェア型でハードウェアを問わないオブジェクト型ストレージスタックは、3つの緩やかに繋がった次のサービスより構成されている。
・プレゼンテーション層:REST、SOAP、従来のファイルシステム・プロトコルを経由 してクライアントとのインターフェースを処理
・メタデータ管理層:どこにデータ・オブジェクトが保存され、どのように保護され、 どのようにストレージノード上に分散しているかを管理
・ストレージターゲット層:ストレージノード間のやりとりを処理
この製品は専用のハードウェア上でもVMware仮想マシン上でも動作することができる。スケールアウト・システムとして設計されているため、ノードを追加するだけでペタバイト単位のストレージまで拡張することが可能だ。EMCはAtmosを企業やプロバイダーに販売しており、オンプレミスにAtmosを設置すればクラウド上のAtmosサービスと連携することができる。
EMCのユーザーの中で最も名前が通っているのはAT&Tである。しかし、AT&T Synaptic Storage仮想プライベートクラウドは他の製品とはかなり違ったハイブリッド・クラウドストレージだ。このシステムはAT&Tのデータセンターで稼働しているが、ユーザーからのアクセスはAT&TのMPLネットワークを経由して行われる。その結果、プライベートクラウドのセキュリティとパフォーマンスに、パブリッククラウドの経済性とを組み合わせたものになっている。
EMC Atomos以外にも、いくつかクラウドストレージ・ソフトウェア製品がある。Caringo Inc.は、Castor Content Storage Softwareの位置づけをコンテンツ・アドレス・ストレージ(CAS)製品からクラウドストレージ・ソリューションに変えることによって、この市場に参入してきた。Cleversafe Inc.は、クラウド上のノードにデータを細かく散らして、レプリケーションの必要性をなくす事ができる情報分散方式(IDA)を利用したクラウドストレージ・プラットフォームを販売している。Cleversafeは、冗長性のためにストレージ上に複数のデータの複製を保存しなければならない製品よりも、実質的に高いストレージ使用率を実現したと主張している。
ハイブリッド・クラウドストレージ・ゲートウェイ
クラウドストレージ・ゲートウェイはオンプレミス・ストレージとパブリッ ク・クラウドストレージの間に置かれるものだ。ゲートウェイは、従来のストレージ・プロトコル、それよりも難解なクラウドストレージ・プロトコル、そしてAPIを相互に翻訳する役目を果たす。歴史的に、パブリック・クラウドストレージはカスタム・インテグレーションを通じてのみアクセス可能だった。さらに、クラウド・ゲートウェイはオンプレミス・ストレージからパブリック・クラウドストレージへの移動および逆方向への移動を、通常はポリシー・エンジンを経由して実行している。
クラウドストレージ・ゲートウェイはいくつかの点で違いが見られる。ゲートウェイにはブロック型とファイル型がある。データセンター内では、それぞれブロック型ストレージあるいはNASデバイスとして設置されている。重複排除と圧縮は、クラウド・ゲートウェイの重要な機能である。どちらの機能もクラウドストレージのコストに重大な影響を及ぼすからだ。転送中およびクラウド上で保存中のデータの暗号化は必須だ。いくつかのゲートウェイはバックアップとアーカイブ用に設計・最適化され、あるものはMicrosoft ExchangeやSharePointなどのアプリケーションと一体化しており、またあるものはインターナル・ストレージ層を補完するトランザクション・クラウドストレージ層をターゲットとして作られている。
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ハイブリッド・クラウドのアプリケーション統合
パブリック・クラウドストレージ・サービスは全て、インターナルクラウド・ストレージ・ソフトウェアやクラウド・ゲートウェイとのやりとりのためにAPIを提供している。ところで、これらのAPIはパブリッククラウドがアプリケーションと連携する際にも使うことができる。クラウドストレージAPIによって社内アプリケーションや市販のアプリケーションをRESTインターフェース経由でパブリック・クラウドストレージに入っていくことが可能になる。
例えば、バックアップ・アプリケーション・ベンダーは自社のバックアップ製品パッケージにパブリック・クラウドストレージを追加するようになった。シマンテックはNetBackupとBackup Execにおいてクラウドストレージのサポートを提供している。同様にCommVault Simpanaバックアップソフトはパブリックストレージ・クラウドと連携する。
企業に優しいストレージクラウド
企業はこれまでほとんどの場合、クラウドストレージと距離を置いてきた。しかしインターナル・クラウドストレージとオンプレミス・ストレージとパブリック・クラウドストレージ(ハイブリッド)の安全な統合という選択肢が出てきたことにより、企業が既存のエンタープライズ・ストレージを安全にクラウドストレージに拡張するためのハードルは下がった。
このところの誇大広告はもっぱら消費者をターゲットとしたものだが、携帯の選択とGoogle、Dropbox、その他のパブリック・クラウドサービスは分かちがたく結びついている。ガートナーの予測によれば、大手企業による全面的なクラウドストレージの導入は今後5年間無いだろうという。その間、企業は自社の既存のストレージ基盤を補完するためにハイブリッドクラウドストレージを戦略的に増設していくことになるだろう。
著者略歴:Jacob Gsoedlはフリーのライター兼IT部門取締役。
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