仮想サーバを支えるブロックベース・ストレージ vs ファイルベース・ストレージ
Storage Magazine 2010年10月号より
本稿では、読者の仮想環境をどのように支えるかを決める際の参考として、ブロックベースとファイルベースのストレージ導入のプラス面、マイナス面を述べる。
サーバの仮想化は、今日のITにおいて最も重要な技術の一つである。そして、この仮想サーバ環境を支えるべく設計された堅牢で効率的なストレージ基盤も、同じように重要である。しかし、多くのユーザはサーバの仮想化を設計するとき、基礎となるこの枠組みを軽視してしまう。鎖の環の一番弱い部分がその鎖の強度だとすると、ITはストレージが仮想化アプリケーション基盤の鎖における弱い環にならないよう確認する必要がある。最大のスケールメリットを実現し、最適なパフォーマンスを得るためには、ユーザは仮想サーバ環境をサポートするストレージ・プロトコルの選択肢を慎重に比較検討しなければならない。
どちらのプロトコルを選ぶべきか
この問いにたいする絶対的な答えはない。どちらのプロトコルも - ブロックもファイルも - それぞれに利点と難点がある。ブロックベースのストレージはより成熟した技術であり、現時点で多くのユーザがいる。とはいえ、NFSも仮想サーバ環境の管理と導入の著しい容易さなど薦めるべき点は多い。何らかの製品や技術を選ぶ前に、ユーザはまず自分たちのビジネスの目標、技術要件、 必要予算を調べ、最も判定基準に合致したものを選択すべきである。以下に、ブロックベース、ファイルベース・ストレージのプラス面、マイナス面をまとめた。これは、データストレージ・マネージャーが仮想環境を支える仕組みを決める際の参考となる情報である。
ブロックベース・ストレージ
ストレージエリアネットワーク(SAN)すなわちブロックベース・ストレージは成熟した技術である。このアプローチには次のような利点がある。
ブロックベース・ストレージの利点
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・ 高パフォーマンスへの最適化およびオンライン取引のようなデータ集約型のワークロードにたいする信頼性。 ・ 多くのブロックベース・ストレージシステムが専用の高速ネットワークを持っている。このことが、より高速なスループットとパフォーマンスの向上を容易にしている。 ・ ブロックベース・ストレージにおけるファイバチャネル(FC)およびiSCSIのホストバスアダプタ(HBA)は、通常プロトコルオフロードを機能として実装している。これらのHBAはメインCPUよりはるかに速くプロトコル関連の関数を実行する。CPUはリソースが空けられることにより他のタスクの実行が可能になる。 ・ 経験豊富なシステム管理者の大きな集合(pool)がある。 ・ VMwareのような仮想化ベンダーやサードパーティのサプライヤーから様々な種類の物理管理ツールが出ている。
ブロックベース・ストレージ不利な点/難点
・ | スイッチやHBAが、NFSで必要とされるネットワーク機器に比べてかなり高価になる場合がある。 |
・ | ストレージ用ネットワークとして独立したネットワークを購入、管理することに伴うレイヤーの複雑さや費用。 |
・ | 導入規模が比較的大きく、絶えず管理面での複雑さがある。スイッチのゾーニング、LUNのサイジング、LUNに何台の仮想サーバをマッピングできるかを決めることなど、LUNの作成と管理は非常に複雑になる場合がある。従来の物理サーバベースのストレージネットワークでは、LUNは物理ディスクスペースを論理ストレージスペースに変換する論理コンポーネントであり、この変換によってようやくホストサーバのOSはディスクのアクセスや使用が可能になる。LUNは、仮想ストレージ環境においては物理ディスクとアプリケーションの間に位置するレイヤである。 |
・ | 特定のベンダーのストレージに精通した経験豊富なストレージ管理者を必要とする。 |
・ | VMwareのファイルシステムでは、ブロックデータにたいしてデータストアが最大2TBまでという制限があるが、これは今日のデータ増加の特性からすると、多くの比較的小さいデータストアを作成し管理することを意味する。 |
ファイルベース・ストレージ
NFSはファイルベースのプロトコルであり、サーバのような動きをするNASデバイスとクライアント(例えば、VMware ESXあるいはvSphere 4.0ホストなど)とクライアント/サーバの関係を確立するために使われる。ファイルベース・ストレージはブロックベース・ストレージとは対照的に、物理ストレージのファイルのレイアウトや構造およびディレクトリを管理する。NFSはまた、いくつかの種類の共有アクセスを処理し、複数サーバからのアクセスを調整するための通信プリミティブを供給する。NFSは最初こそVMwareにおいてサポートされていなかったが、仮想サーバ環境を支えるストレージ基盤として急速にその地位を築きつつある。NASやSAN製品の中には、仮想基盤においてより一層価値が高まるデータ重複排除やシン・プロビジョニングなど、その先進的なデータ管理機能を提供するものもある。
ファイルベース・ストレージの利点
・ | NFSは規格に準拠して作られており、IPネットワーク上で稼働する。 |
・ | 仮想サーバ環境における構成、導入、管理が容易。ITマネージャーは迅速かつ効率的にストレージ環境を用意できる。 |
・ | NFSでは、専用ネットワークとして分離されたファイバ・チャネルストレージ管理リソースを扱うためのIT部門を通常必要としない。替かわりに、WindowsやLinuxのシステム管理者は、サーバとストレージを同時に管理できる。 |
・ | ユーザは、ストレージだけのために分離されたファイバ・チャネルの替かわりに、全てのアプリを横断する統合的なEthernet基盤を導入できる。 |
・ | NFSにはブロックベース・ストレージが持つ2TBのデータストア容量制限がなく、より大きいテラバイトのデータストアをサポートしている。ユーザはより少ないデータストアに、多くの仮想マシン(VM)を配置できる。 |
・ | NFSベースのファイルシステムは、オンラインで比較的容易に大きさを変更できる。 |
・ | NFSはファイルシステムを経由して先進的な特徴や機能を提供する。NFSベースのストレージは、スナップショットやクローンをLUNレベルではなく、ファイルやファイルシステム、またはディレクトリレベルで処理するためより粒度の高いサポートを実現できる。 |
・ | NFSデータストアにおいてはシン・プロビジョニングがデフォルトになっており、初期のストレージ消費を削減できる。 |
ファイルベース・ストレージの不利な点/難点
・ | TCP/IPのパフォーマンス・オーバーヘッド。何社かのベンダーによるテストではNFSはブロックベース・ストレージと同等のパフォーマンスを示してはいるが、いくつかの事例ではTCP/IPの頻繁な処理やオーバーヘッドを取り除くためにローデバイスマッピングやブロックベース・ストレージが求められている。 |
・ | NFSには、ブロックベースのシステムでは普通の機能であるネイティブ・マルチパスのような効率性が不足している。パラレルNFS機能を持つ、近々リリース予定のNFS 4.1はこの問題を軽減してくれるだろう。 |
・ | SAN(ブロックベース・ストレージ)は今でもデータセンターにおけるプロトコルの主流である。LUNのマッピングやポートのゾーニングなどSANの管理は複雑だが、ここはまさにITストレージのマネージャーが精通し快適だと思っている部分であり、実際に有効である。 |
仮想サーバ環境を支えるプロトコルとしてNFSを使用する場合、利点が不利な点をはるかに上回る。NFSの使用はストレージ環境を単純化し、ユーザが「少ない資源でより多くの事をする」(do more with less)ことを可能にする。これが意味するものは、少ないデータストアにより多くのVM、より高い重複排除率、プロビジョニングに要するより少ない作業量と時間、などなどリストはまだまだ続いていく。あなた自身が、自分の組織にとってどちらのプロトコルおよび要求(パフォーマンス、パラレルNFS、データストア制限)の優先順位が高いかを見極めない限り、どちらのアプローチがあなたのIT環境にとってベストかを知るすべはない。それらの優先順位を知り、前述のプラス面、マイナス面を理解することが、仮想化のためのストレージ環境を最適化するに際し有用で強力な出発点となる。
著者略歴:Terri McClureは、マサチューセッツ州ミルフォードのEnterprise Strategy Group社シニア・ストレージ・アナリスト。