ITアーキテクトのひとりごと
第47回 「IOPS性能では腹が一杯にならない」

 

私が通勤で通過する横浜駅には京急線、京浜東北線、東海道線、横須賀線、東急線、みなとみらい線、相鉄線が縦に横に、上に下にと乗り入れているので、駅の造りは一際複雑だ。こんな駅の立体構造の設計と、その複雑な立体構造を事故無く造り上げる工程管理は芸術的に違いない。

 

もっとも、あまりに複雑で、しかも駅の機能を止めることなく工事を実施するという制約のせいで工期は予定よりも大幅に増えたらしい。

 

ちなみに今でも工事は続いているし、その複雑性ゆえに乗り換えで歩く経路が変わった時は迷子にならないように慎重を要する。

 

いつも歩く経路も右に左にと人の流れが錯綜するので慎重な観察と洞察力、判断が必要となる。小さな子供が歩いているときは鞄が顔にぶつからないように、不慣れできょろきょろと周りを見回しながら歩いている人がいるときは大回りでよけたり、急いでいる人がいるときは進路を予測して自分の進路を修正したりと忙しい。急に走られると衝突寸前だ。

 

さて、ストレージの世界ではSSDとHDDを組み合わせて大量のIO処理をおこなうRAID装置は定番のハードウエアとなってきた。Tiered Storage という用語で呼ばれることが多い、この手のRAID装置は、"昔"のHSM(Hierarchical Storage Management)とどう違うのかはわからない。HSMという用語がカビ臭い? 確かにカビ臭くてレガシーな世界の人しか知らない言葉だ。Management と言っている割には実のところ大したことも出来ていなかったレガシーな技術。うん、それも認めざるを得ない。

 

テープがHSMの重要コンポーネントだった時代の用語であるHSMには引退してもらい、SSD、メモリが重要な時代の用語として Tiered Storage が登場したわけだが、Management的な機能が強化されたような気はしない。もっとも、ストレージを使いこなすためのツール、ミドルウエアの充実はめざましいので、その恩恵にあずかるためには道具を使いこなすリテラシとお金を持っているかが重要となった。

 

仮想化ソリューションでは、様々な特性の違うアプリケーションを収容した仮想サーバ群を一手に賄うストレージとして、高速なIOPS性能を持ったTiered Storageが必要になったが、アプリケーションの特性に応じて、IO(アイオー)を右に左に、どのディスク装置をRead、Writeするのかをさばくインテリジェンスが画期的に高度化した、のかどうかもわからない。

 

RAID装置レベルのTiered Storageはメモリ、SSD、HDDを組み合わせて力任せに獲得した大きなIOPS性能を頼りに、大量で特性の違う、何だか分からないIO(アイオー)を単純かつ効率的に処理することだけに専念している。横浜駅を通過する大量の人々のトラフィックを事故も怪我もなく、ケンカもなく効率的にさばくような複雑性を無理に獲得するよりも、単純な処理に専念することが費用対効果にかなっているのだ。

 

すっかりコモディティ化したメモリ、SSD、HDDを大量に使うことで膨大なIOPS性能を確保し、それでも足りずにHadoop分散ファイルシステムでもっと大きなスループットを獲得し、どこまでやっても終わりが無い。

 

要求は巨大化し、複雑化するので、へなちょこなアーキテクチャ、へなちょこなエンジニアリングでは歯が立たない。

 

巨大なデータ、巨大なサーバファーム、巨大なネットワークに挑むためには、どんな技術、製品をどのようにエンジニアリングしないといけないのか。アーキテクチャが試される時代が来た。

 



JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
リンクが張られていない、タイトルだけの記事は、最新号のメルマガ記事です。次回 のメルマガが配信された時点で記事にリンクが張られます。メルマガ登録すると次回 から最新記事を読むことができます。メルマガ登録は無料、非会員でも登録できます。登録はこちらから