ITアーキテクトのひとりごと
第44回 「アーカイブ、クラウド、大事なデータを守るのは結局は自己責任に尽きる」

 

アーカイブ。この意味を深く考えてみる。

 

一定の歴史的評価、社会的評価を経た絵画、彫刻、文書等をできることなら未来永劫引き継いで残していこうという活動は多くの人の賛同を得ている。だからこそ、政府、非政府、民間の各種組織で(まだ不足しているかも知れないが)膨大な費用がそこに投じられている。

 

現代では、サイエンスの領域でも膨大なデータの蓄積が行われ、未来に備えてアーカイブが行われている。これらデータの収集には膨大な費用を要する。美術品の制作に大金持ちのスポンサーが出したであろう金額の10倍、100倍の費用を要していると思われるが、その活用に備えたアーカイブと利用システムにも膨大な費用を要する。それらの費用に見合う活用が出来ているのかを評価するのも難しい。投下された費用は膨大だ。

 

絵画、彫刻等では一定の歴史的評価を経たものが保存されているが、不幸にも、そのような評価を受けないもの、評価に値しないとされたものは、ただただ朽ちていくだけだ。サイエンスの領域では、どんな科学的な探索をするのか、データ収集の前に、一定の評価を経ないといけない。膨大な費用が予想されるからだ。

 

さて、企業活動でも、100年オーダのデータアーカイブを必要としている企業は多い。これまで自社のITシステムに保管されていたデータは、クラウドの時代では、非常に巧く冗長化されたクラウドストレージに保管されるようになる。極端な話として、粗結合な状態で世界中にデータをばらまいてしまえば、データの完全喪失の可能性は減る。

 

こうなると、クラウドストレージのアーキテクチャがどうなっているかが気になる。詳細は公表しないまでも、そのアーキテクチャの概要を公開してもらわないと、「大丈夫です」の一言では心許ない。それでも、同一アーキテクチャ、同一な運用で密結合されたデータが世界中にばらまかれているならば、一瞬の油断で全部消えてしまう可能性は大だ。

 

ITシステムでのデータアーカイブの歴史は絵画のようなアーカイブの歴史と比べて遙かに短いので、データアーカイブに関する英知、知見が蓄積しているとはとても思えない。だからこそ、アーキテクチャが重要だ。小規模なクラウドストレージ事業者では、1箇所のデータセンターにしかデータが蓄積されていないかも知れない。運用も2重、3重でミスを防ぐ手順があるかどうかも怪しい。極端な自動化がデータロストの被害を一瞬で拡大する。

 

それよりも重要なのは、クラウドストレージ事業者の会社継続性の問題だ。倒産でもしたら大変なことになる。生命保険会社の信頼性を計るというソルベン。。。のような指標があるわけでも、金融監督庁から監視されているわけでもないので、突然の倒産には備えようも、対抗しようもないからだ。

 

結局のところ、クラウドストレージの良さも認めつつ、自分でその欠点も補うという自己責任につきる。クラウドになったからと言って自己責任に関わる部分が無くなったわけではないので、そこを自分で担保できない人達にとっては、クラウドも高嶺の花となりかねないのだ。

 

そう言う意味で、クラウドストレージはIT管理者の責任をオフロードしない。クラウドという、わかりにくいIT環境とどのように付き合っていくのかという新たな判断が増えたのだ。オンプロミスのストレージとクラウドのストレージの両者を維持することになっただけで、仕事は増えてしまったことにどのように対処すべきか。

 

企業のIT担当者の仕事が増えたのに見合うだけのコスト削減ができたのか、リスクは低減できたのか。どんな指標でITを管理すべきか、大事なことを見逃さないための深い検討、ビジネス理解が必要になり、CIOの責任は重大だ。

 



JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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