

【新連載】ITアーキテクトのひとりごと
第28回 「ファイルサーバの『見える化』 ~「見える化」への遠い道~」
ファイルサーバによって、情報共有のスピードは格段に上がった。そもそも、会社の仕事から生じた成果物であるドキュメントは、個人のPCから公の場であるファイルサーバに保存すべきものだ。そうはいっても、どこに、どんな順番で保存するべきか、古い版をどこにどのようにアーカイブすべきかは、いつも悩む。無くなるよりいいや、とばかりに適当に整理フォルダに置いておくと置いたことすら忘れてしまうくらいだから後からサルベージするのは大仕事だ。
設計図や仕様書のように文書体系が決まっているものは、ほとんど悩むことは無い。時間をかけて形式が完成しているからだ。それでも、「これはどうしたらいいの」という問題は常に生じるので、文書のメンテナンスは重要な仕事になる。
設計図や仕様書は一定のルールに基づいて構造化された文書だが、大多数の文書は構造化されていない。文書を有効に利用するには、目的にあわせて非構造化文書から構造化された文書を作り出す作業が必要になる。この作業にオフィスワークのかなりの時間が消費される。
ファイルサーバ統合は、構造化された文書の保管先としての有効性はあるかも知れないが、非構造化文書の保存先としての有効性は、集中バックアップが簡単になる、ストレージシステムの使用効率が上がる、くらいしか無いかも知れない。まあ、それでもコスト的には相当な効果を出すことが予想されるので、やらないよりやった方が良いに決まっている。しかし、予算を引き出す名目としてはいいが、オフィスワーカーの生産性はどの程度上がるのだろうか。
ファイルサーバ統合によって、暗黙知が形式知になるような錯覚を覚えるようなことがあるが、そんなことは無い。実現できたのは、改めて自分の持っている文書の量が理解できたことと、その文書を効果的に保管、管理できるようになる第1段階に達したことぐらいだ。本当の『見える化』にはいくつもの大仕事が待ちかまえている。
この第1段階までがファイルサーバ統合の役目なのかもしれない。さて、次の第2段階、第3段階へと進むための方法論が見えない。第1段階だけでも簡単に一定の効果が出ているので、次の段階に挑戦するような"無謀"なことは心の中にそっとしまっておくのがベストかも知れない。ナレッジマネジメントがその答えを持っているのかも知れないが、正直に言って、効果的なナレッジマネジメントってどんなことなのか、サッパリわからない。何かとてつもなく大変そうなので触りたくもないし、面倒でお金がかかった上に効果も定かでないので、うかつに何かやると後ろ指を指されそうだ。
社内SNSや社内ブログ、グループウェア、チャットを組み合わせれば少しは上手く行くのかも知れないが、そもそもナレッジマネジメントなんて、"ナレッジ"を管理するなんて言った時点で大変なことを言っているとしか思えない。自分の持つナレッジが何なのか識別できていないことが多いだけでなく、自分が変化して、世の中が変化しているとナレッジを見る視点、スコープが変わっていくので、そのナレッジを管理しているだけで精も根も尽き果てそうだ。
ファイルサーバ統合でわかるのは、結局、このファイルサーバにあるデータが自分の持っている全てのデータだ、ということを再認識できたことだ。活用できるか? それはファイルサーバ統合とは別次元の問題であることを再認識することにもなる。自分の持っているナレッジが全て文書化されているとして、ファイルサーバ統合は、その文書がそこに入っていることしか保証していないのだ。
株式会社エクサ 恋塚 正隆
第2回 「De-dupeとReplication」
第3回 「コンテンツとアプリケーションの分離」
第4回 「人類が消えた世界」
第5回 「PCが家電品になる日」
第6回 「浸透するクラウド・コンピューティング」
第7回 「魔法の"上書き保存"ボタン」
第8回 「取り残されたストレージ」
第9回 「クリアデスクを実現するイメージング技術」
第10回 「ファイルサーバの進化を際だたせるアプリケーションはどこだ?」
第11回 「今こそ、ストレージ・ガバナンスを考える時代だ」
第12回 「レゴブロックの入れ物と化すデータセンター」
第13回 「使い古されたディスクの廃棄でバチが当たる?」
第14回 「沢山のオプションと責任転嫁」
第15回 「劣化しないデータ」
第16回 「PCIDSSで基盤技術者としての経験値アップ間違いなし」
第17回 「想定外は当たり前。そこにビジネスがある」
第18回 「クラウドサービスにデータを預ける」
第19回 「むやみに暗号化をやりすぎると自分の首が絞まる」
第20回 「ポータブルって本当に便利」
第21回 「サービスと仮想化の関係」
第22回 「クラウド・サービスの不安とサービス品質」
第23回 「頑張れ、電子ブック!」
第24回 「仮想化、クラウドがキーワードに入っていない提案書は没
第25回 「アウトソーシング」
第26回 「ファイルサーバの『見える化』 ~プロローグ~」
第27回 ファイルサーバの『見える化』 ~「見える化」を推進するエバンジェリスト~
第28回 「ファイルサーバの『見える化』 ~「見える化」への遠い道~」
第29回 「仮想化ブームのお陰で、ようやくリソース管理が定着?」
第30回 「キャパシティ計画を必要としないシステム設計」
第31回 「IOPSのジレンマ」
第32回 「クラウドストレージへ行ってしまった私のデータ」
第33回 「災害に備えるITは効率的になる」
第34回 「ITの効率化と真のモビリティが実現した先に待ちかまえるモノとは」
第35回 「想定不足」
第36回 「デジタル記録の時代の新たなリテラシ」
第37回「ストレージ管理技術はクラウド・ストレージやクラウド・データセンターの中でコモディティ化されるのか」
第38回「ビッグデータはとうの昔から当たり前だったストレージ業界の悩み」
第39回「ビッグデータの活用の主役はどこ?」
第40回 「クラウドストレージのSLAはどうなる?」
第41回 「ファッションモデル富永愛が口にするハードディスクの供給不足」
第42回 「3.11東日本大震災が加速するクラウド」
第43回 「ビッグデータ時代の救世主-SSD」
第44回 「アーカイブ、クラウド、大事なデータを守るのは結局は自己責任に尽きる」
第45回 「ソーシャルとビッグデータ」
第46回 「なぜバックアップに時間がかかる」
第47回 「IOPS性能では腹が一杯にならない」
第48回 「ユーザに最適な情報を送り届ける?」
第49回 「コモディティ化の次に来るモノ」
第50回 「修繕計画を立てないITシステム」
第51回 「文脈棚」
第52回 「私の標準Goodsに取り込まれる次のモノ」
第53回 「二度あることは三度も四度もある」
第54回 「デフォルト値」
第55回 「お気に入りを見つけ出す方法」
第56回 「シュリンク」
第57回 「ITのコモディティ化をどうやって乗り越える」
第58回 「ビジネスを実現するクラウド時代に必要なエンジニア」
第59回 「3.11の長期記憶」
第60回 「風化」
第61回 「3度あったことは4度目は無い?」
第62回 「リスク管理」
第63回「データ構成比から自分を見つめる」
第64回「ビッグデータは誰のもの」
第65回「いまやこの技術抜きにはITシステムを考えられない:重複排除技術」
第66回「私がスマホに変えた理由」
第67回「ストレージを面白くする次のアプリケーションは何?」
第68回「大量処理を高速にする方法」
第69回「忘れてしまったこと、これから忘れてしまうこと」
第70回「大容量ディスク登場で考えてみた。クラウドストレージって何だ。」
第71回「ビッグデータ。アイデアが大事だけど、ビジネス化はどうする」
第72回「サービス終了」
第73回「Chromebookとビッグデータ。ストレージ・ワールドを振り返る。」
第74回「重複排除とは何かを振り返ってみると」
第75回「オブジェクトストレージで世界が吹っ飛ぶかも」
第76回「エコ、最適化→重複排除→そしてオブジェクトストレージへ」
第77回「今年の初夢」
第78回「本命は誰だ。Suite製品との付き合い方。」
第79回「バックアップとアーカイブを区別するのはシステムではない。」
第80回「可用性の限界」
第81回「サービスインテグレーション」
第82回「データが正しいということ」
第83回「人生100年時代」
第84回「従量制のITモデル」