【新連載】ITアーキテクトのひとりごと
第10回 「ファイルサーバの進化を際だたせるアプリケーションはどこだ?」

いつもながら、どんどんデータをため込んでいる私のPCのバックアップは、段々と大変になってきた。2Tバイトのディスクが登場し、そろそろ値段がこなれてきた1TバイトのSATAディスクでも使わないとやっていけそうもない。いつものマニアックなPCショップで見るディスクの値段は、株式の相場なみに変動する(株の値段と違って下がる一方だけど)ので、買い時が難しい。選択肢が多すぎると結局買わないという行動経済学の教科書通りの事態に陥る。

ヨドバシカメラにも行って値段をチェックしていると、ポータブルディスクが次々と売れている。「写真をしまっておくには、絶対これが便利だよ」と友達に言われて即決で250Gバイトの外付けポータブルを買っていく女の子は、「あ~、そうなのか」程度の知識でディスクってどんな物なのかを全く理解している様子は無い。タイムセールス並に「いまなら値札の2000円引き」の札が張ってある一番安いディスクをまったく吟味することなく手にとってレジへ直行した。ちょっと高めの化粧品か、安物のバッグでも買う感覚で、すっかりコモディティ化している。

その横で、理解できないものを理解しようと店員にいろいろ質問しているおじさん。この女の子とおじさんの態度は対照的だ。このおじさんは、これを買うと自分が何ができるのかを店員とフリーディスカッションをして考えている風。この女の子は、目的が明快、値段が自分の懐とマッチしているかも明快。製品、技術の中身なんて全く重要じゃない、メーカのブランドだってそもそも知らないので重要じゃない。目的を満足しているかどうかが重要、というこの態度は良いぞ。一方、わたしのようなSIerにとっては、こんなおじさんのような人が出てくるとちょっとやっかいな事になる。

もっとも、この女の子がクレームを付けるとしたら、それは、我々SIerからは想像もできないものになる。

昔はアルバムにしまっていた写真をディスクやiPodに格納するように変わっただけだが、利便性は格段に良くなった。ブログやインターネットのプライベートな空間にも写真をしまっておけるようになり、利用の仕方もユニークなものが増えていく。

写真というデータをストレージ装置にしまっているだけだが、写真というコンテンツが持つ意味が際だっているので、ポータブルディスクと呼ぶよりもフォトディスクとかPhoto Podとでも呼んだ方が良い(Photo Podはデジタル写真立てのような別の意味がある)。

振り返って、会社の中で大量のデータを蓄えているファイルサーバのコンテンツは際だっているどころか全く冴えない。ドンドン増えていって、そのうち何が入っているのかわからなくなる。ディレクトリを作ってファイルを放り込んだ本人も、そのディレクトリの意味を忘れてしまい、コンテンツは迷子になる。人の記憶が移ろいやすいのとそっくりな状況だ。

ファイルサーバなんて、その時その時に役に立っていれば、コンテンツの意味が忘れ去られても良しとするしかない。記憶だったら不要な記憶はそのうち永遠に自然と失われる。それでも問題ないんだったら、ファイルサーバのデータもそのうち自然と失われるようになって欲しい。今の時代は、いったんデジタル化されたコンテンツは、本当の意味では永遠に失われないかもしれない。失われてもいいコンテンツも山のようにあるような気もするが、そうはいかない。

ストレージシステムの進化と装置の大容量化はデジタル化されたコンテンツを無限に受け入れることができるようになった。De-dupeというデータの重複排除を行う技術もストレージシステムの能力を増強しようとしている。

でも、コンテンツを使いこなす技術とアプリケーションがまったく足りないような気がする。そのうち登場するかもしれないコンテンツを使いこなす画期的なアプリケーションを待ちながら、ひたすらデジタルコンテンツは成長する。

JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
第1回 「グリッド・コンピューティング」
第2回 「De-dupeとReplication」
第3回 「コンテンツとアプリケーションの分離」
第4回 「人類が消えた世界」
第5回 「PCが家電品になる日」
第6回 「浸透するクラウド・コンピューティング」
第7回 「魔法の"上書き保存"ボタン」
第8回 「取り残されたストレージ」
第9回 「クリアデスクを実現するイメージング技術」
第10回 「ファイルサーバの進化を際だたせるアプリケーションはどこだ?」
第11回 「今こそ、ストレージ・ガバナンスを考える時代だ」
第12回 「レゴブロックの入れ物と化すデータセンター」
第13回 「使い古されたディスクの廃棄でバチが当たる?」
第14回 「沢山のオプションと責任転嫁」
第15回 「劣化しないデータ」
第16回 「PCIDSSで基盤技術者としての経験値アップ間違いなし」
第17回 「想定外は当たり前。そこにビジネスがある」
第18回 「クラウドサービスにデータを預ける」
第19回 「むやみに暗号化をやりすぎると自分の首が絞まる」
第20回 「ポータブルって本当に便利」
第21回 「サービスと仮想化の関係」
第22回 「クラウド・サービスの不安とサービス品質」
第23回 「頑張れ、電子ブック!」
第24回 「仮想化、クラウドがキーワードに入っていない提案書は没
第25回 「アウトソーシング」
第26回 「ファイルサーバの『見える化』 ~プロローグ~」
第27回 ファイルサーバの『見える化』 ~「見える化」を推進するエバンジェリスト~
第28回 「ファイルサーバの『見える化』 ~「見える化」への遠い道~」
第29回 「仮想化ブームのお陰で、ようやくリソース管理が定着?」
第30回 「キャパシティ計画を必要としないシステム設計」
第31回 「IOPSのジレンマ」
第32回 「クラウドストレージへ行ってしまった私のデータ」
第33回 「災害に備えるITは効率的になる」
第34回 「ITの効率化と真のモビリティが実現した先に待ちかまえるモノとは」
第35回 「想定不足」
第36回 「デジタル記録の時代の新たなリテラシ」
第37回「ストレージ管理技術はクラウド・ストレージやクラウド・データセンターの中でコモディティ化されるのか」
第38回「ビッグデータはとうの昔から当たり前だったストレージ業界の悩み」
第39回「ビッグデータの活用の主役はどこ?」
第40回 「クラウドストレージのSLAはどうなる?」
第41回 「ファッションモデル富永愛が口にするハードディスクの供給不足」
第42回 「3.11東日本大震災が加速するクラウド」
第43回 「ビッグデータ時代の救世主-SSD」
第44回 「アーカイブ、クラウド、大事なデータを守るのは結局は自己責任に尽きる」
第45回 「ソーシャルとビッグデータ」
第46回 「なぜバックアップに時間がかかる」
第47回 「IOPS性能では腹が一杯にならない」
第48回 「ユーザに最適な情報を送り届ける?」
第49回 「コモディティ化の次に来るモノ」
第50回 「修繕計画を立てないITシステム」
第51回 「文脈棚」
第52回 「私の標準Goodsに取り込まれる次のモノ」
第53回 「二度あることは三度も四度もある」
第54回 「デフォルト値」
第55回 「お気に入りを見つけ出す方法」
第56回 「シュリンク」
第57回 「ITのコモディティ化をどうやって乗り越える」
第58回 「ビジネスを実現するクラウド時代に必要なエンジニア」
第59回 「3.11の長期記憶」
第60回 「風化」
第61回 「3度あったことは4度目は無い?」
第62回 「リスク管理」
第63回「データ構成比から自分を見つめる」
第64回「ビッグデータは誰のもの」
第65回「いまやこの技術抜きにはITシステムを考えられない:重複排除技術」
第66回「私がスマホに変えた理由」
第67回「ストレージを面白くする次のアプリケーションは何?」
第68回「大量処理を高速にする方法」
第69回「忘れてしまったこと、これから忘れてしまうこと」
第70回「大容量ディスク登場で考えてみた。クラウドストレージって何だ。」
第71回「ビッグデータ。アイデアが大事だけど、ビジネス化はどうする」
第72回「サービス終了」
第73回「Chromebookとビッグデータ。ストレージ・ワールドを振り返る。」
第74回「重複排除とは何かを振り返ってみると」
第75回「オブジェクトストレージで世界が吹っ飛ぶかも」
第76回「エコ、最適化→重複排除→そしてオブジェクトストレージへ」
第77回「今年の初夢」
第78回「本命は誰だ。Suite製品との付き合い方。」
第79回「バックアップとアーカイブを区別するのはシステムではない。」
第80回「可用性の限界」
第81回「サービスインテグレーション」
第82回「データが正しいということ」
第83回「人生100年時代」

 
リンクが張られていない、タイトルだけの記事は、最新号のメルマガ記事です。次回 のメルマガが配信された時点で記事にリンクが張られます。メルマガ登録すると次回 から最新記事を読むことができます。メルマガ登録は無料、非会員でも登録できます。登録はこちらから