【新連載】ITアーキテクトのひとりごと
第7回 「魔法の"上書き保存"ボタン」

オフィス系のアプリケーションには大抵、"上書き保存"のボタンが付いている。オフィスソフトには忘れた頃にアプリケーション・フリーズという悲劇が待ち受けているので、上書き保存は必須だ。私は、フリーズの予感がすると必ずショートカットのCtrl+Sで保存を心がけている。この予感も長年の経験の賜(たまもの)だ。

なぜか夢中で必死になってエクセル計算シートを作ったり、ワードで設計書を書いているときに限って悲劇が襲う。そのショックの大きさで悪いことだけが鮮明に記憶に定着している、という冷静な分析もあるが、今の経済の大混乱だって人間心理が大きく作用していることを考えると、そんな冷静な分析を受け入れること自体に抵抗感を覚える。

この記事も、比較的簡単にノリノリで書けるときもあれば、テーマが見つからない、テーマがあっても1800文字前後に展開するには内容にちょっと無理がある、という必死な状況もあるので、書きかけの記事が消えてしまうと大ショックだ。でも、この記事を書いているソフトには保存ボタンがない。このソフトは随時、暇を見つけてはデータをディスクに書き込んでいる(らしい)ので、"保存"という行為が全く必要ない。

このソフトは、まさにCDP的な動きをしている。ドキュメントを作成する作業にはトランザクション的な動きがないので、とにかく記録し続けさえすれば、データロストのリスクは最小化される。"上書き保存"ボタンはドキュメント作成作業をコミットしているように見えるが、データ整合性の確保のような必然性がないので、少なくともDB的な意味でのコミットとは違う。

CDPについては、米国Storage Magazineの翻訳記事「第二世代のCDP」がJDSFのメーリングリストの読者むけに11月27日に配信された。この記事では、CDPそのものに関する技術的な説明や、スナップショット技術との境界に関する考察が載っているので是非読んでもらいたい。でも、CDPやスナップショット技術でも複雑な ITシステムを本当に守ることは難しい。ITシステムが持っているデータの複雑さは、甘っちょろい単純な技術でリカバリすることが出来るほど簡単ではない。アプリケーションが分散し、スケールアウトされて、かつ、連携しているなんていうシステムだと、障害が発生すると何が何だかわからないぞ、なんていうことは普通に発生する。こんな時に、状況を理解して分析できる人はどこにいるのか。そんな人を期待しているようじゃ、本当はまずい。もうだめだ。

訳が分からなくなったら無理をしないで、ご破算にするのが良いかもしれない。でもご破算にする粒度だって判断するのが難しくて間違ったらお終いだ。余計に訳がわからなくなる。判断するのが難しいシステムを作ってしまった時点で、そのシステムはリスクを抱えていることになるが、多分、恐らく、ん~ん、絶対にストレージシステムの手品で何とかするなんてことは出来ない。CDPもスナップショットも複雑なITシステムの前では無力だ。

魔法の"上書き保存"ボタンはITシステムには無いので、どうしたらいいのか。

ここはじっくりとアーキテクチャを考えないといけない。ITシステムだけじゃない、人間系も、ビジネスも考えてどうしないといけないのかを考えれば、きっと何か良いアイデアがあるはずだ。そのアイデアを実現するツール箱には、CDPも、スナップショットも入っていないといけない。徒手空拳ではアイデアもわかない。足りない道具はないか。道具と腕が揃ったら、よし、後は"頭"だけだ。実はここが一番の頭痛のタネなんだよね。

JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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