JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「テープ産業を支える日本勢」
現在のコンピュータ用磁気テープ装置や、それを活用するためのテープライブラリー装置と聞くと、米国発の技術で米国中心の産業とイメージしてしまうのは私だけでしょうか。
主力テープ装置であるLTO (Linear Tape-Open) は、ヒューレットパッカード社・IBM社・クアンタム社で構成されるTPCs (Technology Provider Companies) が仕様を決定し、LTO製品自身のプロモーションにおいてもリーダーシップを発揮しております。
また、Spectra Logic社やオラクル社はテープライブラリー装置の分野で存在感を示しています。
一方で、テープストレージを構成するもう一つの要素であるテープメディア (媒体) を考えてみた場合にはその構図が一変します。テープメディアを完成させるために必要なコア技術は、すべてと言って良いほど“純日本製”なのです。
皆様もよくご存じである富士フイルム社とソニー社は、テープメディアメーカーとして高い技術力を発揮し、高信頼かつ大容量のテープメディアを世に送り出し続けております。
そのメディアメーカー2社が高信頼・大容量のテープメディアを実現するためには、いくつもの要素技術が必要であり、あまり前面に出てくることはないのですが、それらの分野で高い技術力を持つ日本企業が存在し、テープストレージの発展を下支えしているのです。
まず、テープメディアを語る上で欠かせない要素が、その土台となるベースフィルムです。PEN (ポリエチレンナフラレート) やPET (ポリエチレンテレフタレート) と呼ばれる合成樹脂によって「薄いのに強い」テープメディアのベースフィルムが作られています。
LTO-1 (第一世代)では8.9µmであったテープ厚が、LTO-9(第九世代) では5.2µmまでの薄型化に成功し、カートリッジに収納できるテープ長を609mから1,035mに伸ばすことができました。この進化には、日本を代表する化学企業である東レ社と東洋紡社が開発・製造してきたベースフィルムによる貢献が最も大きいと言われ、扱いが難しい極薄フィルムの量産化に成功した両社の高い技術力の成果と考えられています。
また、IBM社のエンタープライズテープにおいては、Aramid (アラミド) と呼ばれる「さらに薄いのに強い」ベースフィルムが使用されており、2023年6月時点でカートリッジあたりの記憶容量が最大の20TB (テラバイト) を誇るJEメディアにも適用されています。JEメディアのテープ厚は公表されていないようですが、一世代前のJDメディアがテープ長1,072mでテープ厚5.0µmであり、JEメディアはさらに長い1,163mとの記述があるので、そのテープ厚はついに4µm台に入ったと推察されます。ここにも日本の化学企業の高い技術力の成果が示されています。
磁気記録における再生信号品質に大きく影響する磁性体も日本企業によって支えられてきました (文献などに、戸田工業社やDOWAエレクトロニクス社という日本企業の記載があります)。LTOにおいては、メタル磁性体 (MP) からバリウムフェライト (BaFe) に進化しながら高密度化に貢献してきました。LTO-7 (6TB)・LTO-8 (12TB)・LTO-9 (18TB) の記憶容量は、BaFe無しでは実現できていなかったと考えられます。また将来に向けては、既に基礎研究の成果として発表されているカートリッジあたりの記憶容量580TBのデモンストレーションにおいて新たにストロンチウムフェライト (SrFe) が採用され、次世代の磁性体として有力視されています。
また日本の大学の研究機関でも、さらにその先の磁性体となり得るイプシロン型酸化鉄 (ε-Fe2O3) が研究されており、この分野での日本のリーダーシップが期待されます。
最後に、高トラック密度を実現するために、必要ですが見落とされがちな要素にサーボライターがあり、日本企業であるオタリ社の技術が重要な役割を担っています。テープメディア製造工程でプリフォーマットされるサーボパターンの精度は、直接トラック密度に影響するため、高精度のサーボライターは将来の大容量化に必須の技術と考えられています。
日本人として、いくつもの日本企業がこれまでのテープストレージ業界の発展に欠かすことのできない存在であったことを誇りに思います。今後も「日本連合」としてテープ技術の進化に貢献し続けることを期待しつつ、この記事を読んでくださった皆様にも、いろいろなシーンでのテープストレージの活用を通じて、テープストレージ業界を応援していただけたら、大変嬉しく思います。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。
2023年11月「Inter BEE 2023出展のご案内とJDSF共催セミナーのお知らせ」
2023年10月「CEATEC 2023 CONFERENCE オンラインセッションでの講演配信」
2023年9月「技術革新を続ける磁気テープ」
2023年8月「磁気分野の国際学会INTERMAGのFactory Visit開催から感じたこと」
2023年7月「サイバーセキュリティとしてのエアギャップについて考えてみました」
2023年6月「テープ産業を支える日本勢」
2023年5月「電気代高騰で考えるテープストレージ」
2023年4月「テープアーカイブの可能性」
2023年3月「データストレージのライフサイクルとテープ」
2023年2月「ゼタバイト時代を支えるテープ」
2023年1月「デジタルデータの増加は止まらない」
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