JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「デジタルデータの増加は止まらない」
2022年11月にフランスのベルサイユ宮殿で開催された第27回国際度量衡総会で、メートル法を基本とする国際単位系(SI)に、これまで最大だったSI接頭語の10の24乗を示す「yotta:ヨタ」に加え、10の27乗を表す「ronna:ロナ」、10の30乗を表す「quetta:クエタ」、が追加されたそうです。
10の24乗を示す「ヨタ」は、1991年に追加されたので、30年で10の6乗分の接頭語が追加されたことになります。これは年率にすると1.6倍近くの数の増加に対応したことになります。
あまりに数字が大きすぎて想像できないですが、このような大きな接頭語を加えないといけなかった背景には、デジタルデータ量の爆発的な増加が上げられたそうです。世界で増加し続けるデータ量に対応する上では、これまで最大としていたヨタでは将来不足する可能性があるということのようです。
実際、米国の調査会社IDCによると、2010年に世界に存在したデジタルデータ量は約1ゼタ(10の21乗)バイトでしたが、2025年には約180ゼタバイトになり、この増加率は指数関数的でこの先も上がっていくと予想されています。
世界に存在するデータ量はどこまで大きくなっていくのでしょうか。
データは21世紀の石油と言われるように、機械学習の普及などによりデータの価値は上がっており、データを収集・蓄積して分析・活用し、新たな価値を創出していくために、医療・農業・放送・製造・監視などあらゆる領域で取得したデータをアーカイブしておくことが重要になってきています。
新たな接頭語を追加しなければならないほどのデジタルデータ量の増加が見込まれる中、アーカイブしたいデータも指数関数的に増加していくことが予想されます。
最近、磁気テープストレージシステムのLTOロードマップがLTO-14まで更新されました。LTO-14では最大576テラバイトの記録容量となっています。
このロードマップに従えば、容量増加率は先ほど述べたIDCによるデータ容量の増加率予測とほぼ同じで、新たに生成されるデータの内、アーカイブするデータの割合が一定であれば、LTOシステムでアーカイブしてマイグレーションしていくことで、同じフットプリントでアーカイブデータ量の増加に対応できることを意味しています。
ちなみに最近話題にのぼった3.5インチフロッピーディスク1枚と同じデータ量は、LTO-9のテープだと1平方ミリメートルに記録できてしまいます。この様なLTOの大容量化を支えているのは、ナノ(10のマイナス9乗)オーダーの技術です。
例えば、LTO-9に記録される1ビットの長さは50ナノメートルにも満たないものです。そしてこの長さの記録を実現させるのは、直径20ナノメートルほどの磁性粒子になります。この大きさは、乳酸菌の数十分の1という非常に小さなものです。
20ナノメートルほどの磁性粒子を大きさと磁気的な性質の両方ともに均一に作るという技術が求められています。
また、1ビットの幅(記録トラック幅)は1000ナノメートルを少し超える程度になっています。LTO-9カートリッジ1巻に巻かれているテープは1キロメートルほどの長さですが、磁気ヘッドはテープ上をマラソン選手並みのスピードで駆け抜けます。
そのスピードで、1000ナノメートルほどのトラック幅に対してほとんどずれることなく正確に磁気ヘッドが走行しないと記録や再生を正しく行うことができません。これを実現するのが磁気ヘッドをナノメートルオーダーで制御するサーボ信号を使ったトラッキング技術になります。
そして、LTOテープに塗布されている磁性層の厚みは100ナノメートルにも満たないもので、テープ1巻に使われている磁性塗膜の量は1ccも必要ありません。よく例えられる東京ドームに磁性層を敷き詰めると、塗膜の量は3000ccに満たない量で足りることになります。これは広い面積を高速でナノメートルオーダーで制御して塗布する技術により達成できるものです。
この様に、ナノオーダーで正確に制御するいろいろな技術の積み重ねによりLTOの記録容量向上は実現しています。これからますます増加していくデータをアーカイブする技術として磁気テープはまだまだ高容量化していき、増え続けるデータのストレージに役立っていきます。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
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2023年11月「Inter BEE 2023出展のご案内とJDSF共催セミナーのお知らせ」
2023年10月「CEATEC 2023 CONFERENCE オンラインセッションでの講演配信」
2023年9月「技術革新を続ける磁気テープ」
2023年8月「磁気分野の国際学会INTERMAGのFactory Visit開催から感じたこと」
2023年7月「サイバーセキュリティとしてのエアギャップについて考えてみました」
2023年6月「テープ産業を支える日本勢」
2023年5月「電気代高騰で考えるテープストレージ」
2023年4月「テープアーカイブの可能性」
2023年3月「データストレージのライフサイクルとテープ」
2023年2月「ゼタバイト時代を支えるテープ」
2023年1月「デジタルデータの増加は止まらない」
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