JEITAテープストレージ専門委員会コラム

クラウド利用で気を付けたい「クラウドロックイン」



近年、多くの企業がクラウドストレージを利用するようになりました。クラウドストレージには、インターネット接続環境さえあればどこからでも容易にデータ共有できるという利便性、データが増えてもすぐに容量を追加できる拡張性、ストレージデバイスの稼働監視や保守メンテナンスが不要な運用管理性などのメリットがあります。また、災害発生からデータを守るBCP対策としても有効なことから、ファイルサーバーやバックアップストレージなどの用途を中心に利用が進みつつあります。

しかし、クラウドストレージも万能というわけではありません。大切なデータを保管する際には、知っておくべきリスクがあるのも事実です。そうしたリスクの1つがクラウドへの「ロックイン」です。あらゆるシステムにクラウド基盤を採用した結果、オンプレミスの環境がゼロになるだけでなく、特定の単一のクラウドベンダーのソリューションに自社の環境を全面依存する状態です。

注意しなければならないのは、自社の競争力に関わる機密データ、コンプライアンス対応のデータ、高いセキュリティ性が求められるデータといった、長期間保管する必要がある重要なデータのアーカイブ用途です。アーカイブ用のクラウドストレージに保管した重要データを取り出したい場合があると思いますが、そこに予定外の費用がかかってしまうことがあります。クラウドアーカイブは、頻繁なデータのダウンロードを前提としていないため、頻繁かつ大量のダウンロードが必要になる際に料金を通常より高くするという考え方を取っているからです。このようにダウンロードがしにくいということは、一度利用し始めるとコスト管理の観点から他にデータを移行しづらいということにもなります。さらに、クラウドサービスに限ったことでありませんが、サービスを利用するということは、ベンダー側の都合でそのサービスの料金や仕様が変わってしまう可能性にも注意が必要です。

では、どんなストレージがアーカイブ用途に有効なのか、求められる要件を考えてみましょう。

まず、第一の要件として挙げられるのが、長期保管が可能であるという点です。法令で定められた保管期限を守るには、数十年が経過してもデータを完全に読み取れるストレージでなければ意味はありません。また、データの真正性を担保できるという点も重要な要件です。書き換えや削除が可能なストレージの場合、誤操作によるデータの上書き、意図的な改ざん・消去ができてしまうため、アーカイブに適しているとは言えません。さらにネットワークを経由したサイバー攻撃からデータを守るために、物理的に切り離して保管できるストレージであることも、アーカイブに求められる要件の1つです。

このような要件を満たすのが、オンプレミス環境の「テープストレージ」です。テープカートリッジは室温で50年以上に相当するテストにおいても磁気特性に変化が生じないことが確認されており、データのアーカイブ用途に適しています。また、一度だけ書き込み可能な「WORM(Write Once Read Many)」仕様のテープカートリッジもあるため、誤操作によるデータの上書き、意図的な改ざん・消去を防ぐことができます。さらにテープカートリッジをドライブ装置から取り出してしまえば、ネットワークから物理的に切り離した状態で保管できるので、サイバー攻撃の影響を受けることもありません。

テープストレージにはこのほかにも利点があります。特に大きな利点と言えるのが、経済性の高さです。テープカートリッジは容量あたりのコストが安いだけでなく、データを読み書きするときにしか電力を使用しないため、ランニングコストが非常に安価です。クラウドストレージのようにネットワークのデータ転送量によってコストが発生することもありません。それに加えて性能面にも優れており、データサイズの大きなファイルの場合はクラウドストレージはもちろんのこと、HDDを内蔵するオンプレミス環境のストレージに比べても、必要なデータを高速に読み出せます。

クラウドストレージのメリットであるBCP対策についても、テープストレージならば同様の効果が得られます。テープドライブ/ライブラリ装置からテープカートリッジを取り出し、災害の少ない遠隔地の倉庫に運搬して保管できるのは、テープストレージならではの特長でもあります。

上記の特性を踏まえ、さらに特定のベンダーにすべてを委ねるリスクを避ける意味でもオンプレミスのアーカイブストレージは確かなメリットをもたらすソリューションとなり得るのです。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

 

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