JEITAテープストレージ専門委員会コラム
カセットテープの発明に思う
カセットテープの生みの親であるオランダの技術者、ルー・オッテンス(Lou Ottens)が2021年3月6日に94歳で逝去されました。
ルー・オッテンスは、オープンリール式テープに代わる、コンパクトなカセットテープを考案しました。磁気テープを使用した“コンパクト・カセットテープ”の第1号は、1963年の“Berlin Radio Show”(ドイツにて行われている世界最大規模の見本市)で初公開されたそうです。
カセット(すなわちカートリッジ)に磁気テープを入れたことで、リールに磁気テープを巻いただけの状態で取り扱いが大変だったものが、片手で取り扱いでき簡単に持ち運ぶことができるようになり使い勝手が大きく向上しました。これにより、磁気テープカートリッジは、可搬性媒体の代表格となり、民生用としては音楽用途のカセットテープに加え、VHSビデオテープに代表されるような映像用としてもカートリッジが広く使われることになります。また、コンピュータのデータストレージ用途の磁気テープも、カートリッジを使用したものに置き換わっていきます。
https://home.jeita.or.jp/upload_file/20180725112701_jYahZ5OUKI.pdf
可搬性があること、すなわちシステムから取り出せることは、現在ではコンピュータウイルスに対してエアーギャップがあるという大きな利点にもなっています。
磁気テープは、カートリッジを採用したことで塵や埃の付着や、手で触れてしまったことによって汚れたり折れたりすることが大幅に減りました。磁気テープ表面に塵や埃などの汚れが付いたり折れてしわが入ったりすると、その部分に信号を記録できなくなったり、記録されている信号を読めなくなったりしてしまいます。例えばLTO8では、1bitの記録面積は凡そ0.075um2なので、10um程度のごく小さな塵や埃などの付着でも1000bit近い情報が失われてしまうことになります。磁気テープをカートリッジに入れることで塵や埃から表面を清浄に保てるようになり、記録密度を上げていってもデータが失われる心配をすることなく安心して記録再生できるようになっています。さらにLTOは強力なエラー訂正能力を持っているので、1000bit程度の情報が失われても、ユーザーデータが失われることはありません。ちなみに、オーディオコンパクトカセットはどういう記録だったのかを考えてみると、アナログ記録なので明確な数値は出せませんが、短い信号でも3000um2近い記録面積がありました。現在のLTOではとても大きな付着になると思われる10um程度の塵や埃があっても、その数十倍の記録面積があるので信号が欠落することはなさそうです。オーディオコンパクトカセットに比べて、カートリッジは記録密度と共に密閉性が上がり、LTOのカートリッジは非常に密閉性が高く小さな塵も侵入しにくくなっています。
また、カートリッジで保護されたことで、磁気テープを持ち運んだり記録再生装置に取り付けるときに折れたりしわが入ったりしにくくなったことで、カートリッジがなければ取り扱いにくい薄い磁気テープも簡単に扱うことができるようになりました。LTO8のテープの厚みは皆さんが電子レンジなどで使用されているラップフィルムのおよそ半分の厚さです。むき出しの状態でこの厚さのテープを手で扱って全くしわを作らないというのは至難の業ですよね。カートリッジのおかげで薄い磁気テープを1000m近く巻いたリールを簡単に取り扱うことができるのです。
磁気テープをカセット(=カートリッジ)に入れる発明が、60年以上の時間を経て現在のLTOのような高容量な磁気テープにつながっているのです。磁気テープはまだまだ高容量化していき、増え続けるデータのストレージに役立っていきます。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
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2021年8月 「クラウド利用で気を付けたい『クラウドロックイン』」
2021年7月「安心・安全な使い捨てテープ?」
2021年6月「今あらためてデータバックアップのおさらい」
2021年5月「カセットテープの発明に思う」
2021年4月「磁気の力」
2021年3月「感染症による社会変容に伴う、デジタル化の急激な拡大に対応するデータ保存の必要性の考察」
2021年2月「進む教育のデジタル化」
2021年1月「ゲーム機とテープストレージのデータ転送速度」
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