JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「成熟と先端を行く磁気テープの技術」
磁気記録技術は、1898年にデンマークのV. Paulsenが鋼線中の磁化状態を制御して音を記録したものが最初といわれています。この磁気記録技術を使い、磁気テープに情報を記録し始めてから60年以上になります。
磁気テープが長期保存に向くのはなぜ?
デジタルデータを磁気テープに記録するというのは、1/0で構成されるデジタル情報を、磁気的にN/Sを書き換えることができる磁気テープにN/Sの情報として書き込むことです。
磁石は一度磁化させてしまうと、それを維持するために外部から新たに磁化し直したりすることなく、長い時間がたってもその磁力が大きく落ちずに非常に安定しています。皆様の家庭でも磁石はあちこちに使われていると思いますが、子供のころに使っていた磁石でも磁力が自然となくなって着かなくなってしまったという経験がある方はまずいないのではないでしょうか。このように一度磁化された磁石は長期間安定してその磁化状態を維持することができるのです。磁気記録は、磁石のそのような性質を利用して長期間安定して情報を残すことができます。そして、一度記録をした、すなわち磁化させた磁気テープは記録装置から取り外してもなかなか磁力が落ちることはなく、その情報が消えることはほとんどありません。そのため、磁気記録を使った磁気テープは長期保存に適しているのです。
磁気的な安定性について下記のようなデータがあります。
https://home.jeita.or.jp/upload_file/20190108152636_yKSGflV1ix.pdf
なぜ小さい磁性粒子を使っているの?
磁気テープはごく小さい磁性粒子を使っていることをうたっていますが、この磁性粒子は一つ一つが磁石で、記録するという作業によって磁化を同じ方向に向かせ、デジタル情報1/0に合わせてN極、S極に書き換えていくことになります。1ビットの中にたくさんの磁性粒子を入れれば入れるほど、それを磁化したときにビットごとの磁性粒子の数にばらつきができにくくなり、各ビット内の磁力が均一になるために磁気テープの記録はばらつきが少なく安定し、それによって間違いの少ない情報を記録できることになります。磁性粒子がどのくらい小さいのかというと、例えばLTO8では髪の毛を輪切りにした断面に50000ビットもの情報を書き込むことができるのですが、その非常に小さい1ビットを記録する体積の中に500個を超える磁性粒子を詰め込むことができる大きさ というと想像できるでしょうか。この様に1ビット中に非常に多くの微小磁性粒子を詰める技術により、間違いの少ない情報を記録することができるようになっています。
磁気記録という成熟した技術に最新のナノテクノロジーを取り込んで高容量、長期保存安定性を実現している磁気テープを手に取ってみてはいかがでしょうか。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/about/detail.cgi?ca=1&ca2=292
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。
2020年9月「量子コンピューターとテープストレージ」
2020年8月「重要度を増す『ホットデータ』と『コールドデータ』」
2020年7月「成熟と先端を行く磁気テープの技術」
2020年6月「宇宙とテープストレージ」
2020年5月「新型コロナウイルス 緊急事態宣言下で改めて感じたデータアーカイブ」
2020年4月「変わりゆくテープストレージを取り巻く環境」
2020年3月「エアギャップセキュリティによる重要データ保護とデータ利活用」
2020年2月「3年目エンジニアが解説する,テープストレージを使ったSDS!」
2020年1月「未来のテープ」
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