JEITAテープストレージ専門委員会コラム

これまで、テープストレージについていろいろと紹介させていただきました。
今回は、そこに使われているテープメディアってどの様に作っているのかを紹介させていただきます。

LTOに代表されるテープメディアの厚みは日本人の髪の毛の10分の1以下 わずか6ミクロン足らずと とても薄く作られています。そのためLTO 8では、わずか10cm四方のテープメディア1巻に約1kmものテープを巻き込むことができます。
まずは、テープの層構成を見ていきます。ベースフィルムとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PA(ポリアミド)のいずれかの素材の上に、下地となる磁性を持たない下層を塗布し、その上にデータを記録する磁性層を塗っています。また、ベースフィルムの反対側には、帯電防止や搬送性・走行性のためにバックコート層が設けられていて、数ミクロンの中は少なくとも4層構成になっています。
それでは、このテープをどのように作っていくか順を追って説明していきます。

まず、データの記録をする磁性層に使う磁性塗料の混合工程です。
磁性粒子を接着剤と溶剤とで混ぜ合わせ、顔料インクを作成します。墨汁をイメージしていただけるとよいかもしれません。墨汁は顔料がカーボンですが、磁性塗料はその代りに磁性粒子を使ったものになります。
さらに言うと、墨汁に使われるカーボン粒子に比べると、1巻で12TB(非圧縮時)の容量を持つLTO8に使われる磁性粒子は、数百分の1の体積しかない微粒子 最近よく耳にするナノ粒子になります。
このように作られた磁性塗料を塗布していきます。磁性体が多く積み重なってしまうと磁気エネルギーが互いに干渉する自己減磁により、きれいな信号が得られなくなってしまうために、磁性粒子が厚み方向に十個前後並ぶ厚みに調整することが重要になります。ここでもnmオーダーの厚み調整が必要です。
次の工程は表面の平滑化工程です。磁性塗料が塗布されたベースフィルムのロール(ジャンボロール)に、加圧加熱処理を行って、表面を滑らかにする加工を行います。この一連の工程に使用する装置をカレンダーマシンといいます。現在のテープの表面の凹凸はわずか数10nmとごく僅か。これを鹿児島-札幌間1600kmの道路に例えると、わずか数10μmの粗さで塗装することになります。鹿児島-札幌間に小石どころか髪の毛一本あってもいけないことになります。
つぎは、カレンダーマシンにかけたジャンボロールから規格に定められたテープ幅(LTOでは、12.65mm)に裁断する工程になります。裁断した磁気テープが巻き取られたものを「パンケーキ」といいます。LTO 8ではテープの長さは約1kmにもなりますが、サブミクロン単位の精度が要求される記録・再生では、ほんのわずかなテープ走行時の蛇行でもエラーが生じてしまいます。これを可能な限り低減するため、裁断にも高度な技術が必要になります。最近のテープスリットの精度はテープ全長に対してわずか数μmとなります。
さらに、この精度で裁断したパンケーキに記録再生ヘッドトラッキング用の信号(サーボ信号)を書き込むことになります。この信号により12.65mmに、わずか数μm幅のトラックを6,656本書き込めるように 記録再生ヘッドを高精度で制御することができます。 これらも鹿児島-札幌間の直線道路に例えるとすれば、わずか数cmのブレで一直線に切り分けて、さらにその道路の上をわずか1mmのブレで走行することになります。
サーボ信号が記録されたパンケーキは、カートリッジに巻き込まれ、厳格な最終検査を経て、皆様のもとに届けられます。
このように、ナノのオーダーの材料をナノオーダーでコントロールして、テープを作成することで1cm四方に一年分以上の新聞のデータを書き込むことができるような高密度なテープメディアを実現できています。

 

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

 

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