JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「ビッグデータは本当にビッグになるのか?
- 1日1PBの動画の保存先 救世主はフラッシュではない? - 」

 

年間1PBの動画がアップロード、これからも増え続ける

今やスマートフォンでも大容量の高解像度ビデオがとれる時代、世界中の人々がクラウドにアップロードする。YouTubeの1日の動画アップロード容量は1日1PBと言われているがこれも指数関数的に伸びている。もっと具体的に言えば5年で10倍の勢いで伸び続けている。今後も4Kから8Kへと高解像度化はまだまだ続くが、IoT時代、人が使うスマートフォンの解像度もここ数年で飛躍的に伸びた。代表的なスマートフォン、iPhoneを例にとると2007年の初代では200万画素だったカメラ画像は4年で4倍の800万画素、動画に関しては2009年にVGA-30fpsだったものが5年後の2014年にはFullHD1080p-30fps/60fpsになっている。ちなみにVGAは640×480、FullHDは1920×1080で、FullHDの場合1時間で6GBの容量が必要になる。
一方IoTの本命、センサーとしてのカメラも同様の解像度が期待できる。コンポーネントの低価格化とそれに付随するソフトウェアやインフラが充実してくるからだ。 しかし、この拡大し続けるデータ量、我々はどんどんクラウドにアップロードすればよいのだが、保存する当の本人はどうするのだろう?

 

答えはフラッシュではなかった!?

ここ数年、ストレージの世界では多数のオールフラッシュ製品が急速に立ち上がってきた。従来のストレージベンダーというよりは、新興のスタートアップが汎用サーバーを使って製品化するケースが増えてきている。それほどCPUのパフォーマンスが上がり、メモリーや、SSDの価格が低下してきたということなのだろう。高速回転させるプラッタを複数枚搭載するHDDに比べ、フラッシュは大容量化が比較的容易である。3D技術と言われるように何層にもセルの層を重ねることで実現できるため、プラッタを薄くして枚数を増やすことが困難なHDDよりも今後の伸びが期待できる。
ところがYouTubeを運営するGoogleの答えは意外なものだった。彼らはHDDがまだまだ大容量ビデオの保存先として、容量単価を下げることができるとみている。
コストを下げる手法としてはいくつかあるが、HDDの場合は1コントローラーあたりのプラッタ数(容量)を増やすことが一つの解決策であろう。そこでGoogleの提案は以下のようになっている。

3.5インチ、2.5インチのフォームファクターの見直し- より多くのプラッタを実装するために高さを増やす
複数の同時アクセスが可能なように複数のアクチュエータの実装
複数ドライブのグループ化
従来型と瓦書き記録方式(SMR)を同じドライブ内に実装- ホットデータとコールドデータを1台のHDDに記録できるようにする
   
* 瓦書き記録とは従来のように最初から記録セクターを決めるのではなく、記録トラックをオーバーラップ(瓦が重なるように)記録することで、記録密度を上げる技術である。トレードオフとしてシーク、リードスピードが低下する。
それ以外にも12V単一電源化等細かい提言がなされている。

 

カギは業界標準

最近はOpen Compute Projectに電源48V化を提言するなど、データセンター向けのインフラやコンポーネントの標準化を積極的に進めているGoogleだが、上記のような提言も、業界の標準とならなければ効果も限定的だろう。競争の原理が働かなければ期待していたコスト低減をすることはおろか、実は専用製品で割高にもなりかねない。すでにある要素技術はそのまま使えることから容易にも思えるが、やはりそれなりの設備投資も必要と考えられる。はたしてHDD業界はGoogleの提言を元に新しい業界標準化を実現できるのだろうか?
個人的にはハードディスクのフォームファクターの変更がかなりの障壁になると思う。フォームファクターが変われば、従来あるストレージやサーバーにはそそまま使えないからだ。従来との互換性を捨て、クラウド時代を見据えて全く新しい仕様を標準化するには、それなりの勇気と業界内での合意が必要なのではないだろうか? しかし何事も大きなイノベーションをおこすには過去のしがらみを捨て去る必要がある。今後のHDD業界の動向を見守りたいものだ。

 

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
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