JEITAテープストレージ専門委員会コラ
「F1チームがITベンダーになる日」
思い返せばマクラーレンホンダの全盛期、アイルトン・セナの人気も相まって日本では空前のF1ブームが到来していた。来年度からホンダがマクラーレンにエンジンを供給するというニュースを聞いて、少し胸の高まりを感じたのは筆者だけであろうか?
斯く言う車好きの筆者も、会社がスポンサーをしていた時代に鈴鹿パドック内のVIPパドッククラブで観戦する機会があり、当時ウイリアムズでステアリングを握っていたジェンソン・バトンとも握手することもできた。またそんな時代が来て欲しいものだ。
さて思い出話はこれくらいにして、そのF1チームのマクラーレンが展開するハイテクカンパニーを紹介しよう。
ロンドンからモーターウェイM4に乗り、M25経由で西に1時間足らずの豊かな緑に覆われた地にマクラーレンテクノロジーセンターはある。マクラーレンアプライドテクノロジーズ社はその中の小さなプロジェクトとして始まった。開発に莫大な費用をかけられるF1チームならではの高度なシミュレーション技術、レース中のセンサーデータのモニター、リアルタイム分析技術。
これって、まさにインターネット・オブ・シングスの時代のコア技術ではないか!? 偶然か必然か、はたまたロン・デニス(編集者注:マクラーレン・グループのグループCEO、マクラーレン・レーシングの総帥)の明晰な頭脳が導き出したシナリオなのか、F1で培った高度な技術がと近未来のIT技術にマッチしたのだ。
彼らのコア技術で一般ITの分野に応用できる技術は、なんといってもリアルタイム・モニタリング技術である。例えばインターネット・オブ・シングスで有望な、医療分野、オイル・ガスの資源分野、交通システムへの応用等が考えられる。スマートシティ構想などにも必須な技術である。
彼らの技術はさらにその先を行く。多くのセンサーからの情報を元に、レース中に細かく車のパラメータを変更したり、戦略を変更したりという作業を瞬時に行う必要があるからだ。これを突き詰めると自立型のフィードバックシステムとなるし、それが「センス」する時代の次の時代「アクト」する時代なのである。
考えてみればアマゾンも元々書籍のネット販売から始まったのだが、今では最大のクラウドサービス業者である。数年で業界のマップが塗り替えられる、そんな時代に突入しているのをひしひしと感じる。今後もイノベーションは、従来のIT業界の外の意外な分野から来るのかもしれない。
しかしながら変わらないものもある。これらの大量のセンサーデータを保存するストレージである。特に環境データ、大規模な科学実験から生み出されるデータ等、二度と同じものが再現できないデータは貴重である。これらの多くは効率の良いデータセンターに保存されるのであるが、実は全世界のデータセンターの消費電力は国家レベルにまでなってきている。なんと日本全国で消費される電力よりも多いのだ。
その課題に対して現在注目を浴びているのがマイクロサーバーや次世代不揮発性メモリーなどである。ただし次世代不揮発性メモリーはまだ黎明期であるし、コスト的にも当分は高いままだろう。それまではスーパー低コストなテープをうまく活用するのが得策ではないだろうか。
F1レースの重要な要素にピットストップ回数があり、レースも単に速いだけでは勝てない。レース中スピードだけを追い求めるのではなく、燃費やタイヤのマネージメントなど色々な要素を管理し、ピット回数を増やすなどの無駄を排除し全体の最適化ができるチームが勝利を獲得する。
過去に例がない勢いで増殖していくデジタルデータ、これを預かるデータセンターの運用も同じである。様々なサービスレベルを低コストで提供する、言い換えれば業界でトップクラスのデータ管理コストを実現することが、現代ITレースを勝ち抜くための最低必要条件とも言えるだろう。
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
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