JEITAテープストレージ専門委員会コラ
「LTFSはどこに向かうのか?」

 

情報量の爆発的な増大傾向は、モバイルやソーシャル・ネットワークやクラウドなどのITインフラや利用の変化の後押しによって、止まることを知りません。またアナリティックスのようなデータの利用技術によって、蓄積されたデータの価値が高まっているのかもしれません。この状況において、大量のデータのアーカイブ先となるストレージの要件はテープ・ストレージのもつ特徴とちょうど合致しています。すなわち、低コストで大容量で長期保管性の優れたテープ・ストレージは、従来のバックアップ用途のみならずアーカイブ・ストレージとしてもうってつけなのです。

 

こうした利用の変化を支える技術としてLTFSは2010年に生まれたわけですが、データの長期保管を実現するには単に磁気メディアの性能だけではなく、データへのアクセス方式が長期に安定的に提供される必要であることもわかっていました。すなわち、テープ上のデータが残っていても、いざ読み出そうとしたときに読み出す手段がないとまったく役に立たないからです。そのため、LTFSは当初からオープンソースとテープフォーマットを公開することによって、この新しい技術の普及と利用の促進を行っています。それから3年を経て、LTFSはテープ利用の共通技術としてさまざまな企業の製品に取り込まれてきています。この技術がどのように発展していくのかを考えると、ディスクとの融合、データベースとの融合、クラウドの融合... さまざまな適用分野で効率よくデータにアクセスするための仕組みが整っていくに違いありません。現在は映画や放送産業、あるいは科学技術分野での利用が先行しているようですが、さらなる広がりのために特化したアプライアンスが登場してくるのかもしれません。

 

これらの発展の一方で、変化しないものは何でしょうか? もし1つだけ挙げるとすれば、開発の当初にもっとも意識されていた「技術のオープン性」に違いありません。次に取り上げる2つの活動は、LTFSのオープン性・互換性をユーザーに提供できるように業界が一丸となって推し進めるものといえます。

 

<LTFSフォーマットの標準化>
2012年8月、ストレージ業界団体であるSNIA (Storage Networking Industry Association)にLTFSのテクニカルワークグループ(TWG)が設立されました。このTWGではLTFSの標準化と将来の拡張について議論をしており、このたびLTFSフォーマット仕様書のドラフト(Version 2.2.0 rev k)が公開されました。
http://www.snia.org/tech_activities/publicreview (英文)

 

新しいLTFSフォーマット仕様書は、従来LTOコンソーシアムのWebサイトで公開されていたものをベースにしており、今後承認を経て正式な標準として発効する予定です。 LTFS TWGの活動によって、LTFSは「オープンなテクノロジー」から「オープン・スタンダード」に一歩進んだのです。

 

LTFSのフォーマット仕様書は、磁気テープにファイルを記録する際にどのような形式で書き込むのかを規定するものです。少しだけLTFSの仕組みを説明すると、テープ上の大部分はファイルの中身にあたるデータブロックで埋められていますが、これ以外にもファイルの名前や属性などを保存する「インデックス」がテープの要所ごとに複数個書き込まれています。このインデックスは、各ファイルとそのファイルを構成するブロックの記録位置の関連を管理しているのですから、ファイルシステムの中で一番重要な構造といえます。インデックスは将来の拡張性や柔軟性を見越してXML(Extensible Markup Language)という記述形式で書かれており、例えばファイルの作成日は<creationtime>と</creationtime>という2つのタグで表すことになっています。LTFSフォーマット仕様書にはどのような種類のタグでファイルを記述するのかがきちんと規定されているので、仕様書に準拠したソフトウェアを使えば、LTFSカートリッジの互換性を実現することができるのです。

 

さて、今回の仕様書での追加・変更内容については文書の最後ページにまとめて列挙されていますが、全体的に見ればLTFSフォーマットVersion 2.x系として互換性を維持したまま拡張されています。目新しい機能としては、Appendix Fに「Interoperability Recommendations」として解説されている、複数巻のテープにまたがるファイルスパニングとACL情報のサポートがあげられるでしょう。後者はNTFSやext4などのディスクファイルシステムからのファイルをバックアップする場合に利用できるので、今後のLTFSソフトウェアなどでの実装が期待されます。別の変更点としては、カートリッジメモリ(CM)へのLTFS情報の保存機能があります。(Section 8.4とAppendix C.4) これを使えば、例えば棚置き管理されているLTFSテープに対してCMリーダー機器等を用いてボリューム名などの情報を確認するような利用も可能になります。

 

<LTFSカートリッジの互換性検証テスト>
SNIAによるLTFSフォーマット仕様書の標準化はテープの相互運用を実現するための理論的な根拠となりますが、それに加えてLTOコンソーシアムでは実際のカートリッジを使って互換性検証テストを始めています。これにより、対象となるソフトウェアの実装がフォーマット仕様書にきちんと準拠しているかどうかが調査され、テストにパスしたソフトウェアがWebに公開されるようになります。

 

2013年11月1日時点で、Quantum, HP, IBMのソフトウェア計4種類が検証済みソフトウェアとして公開されています。テストの手続きや結果などについてはこちらを参照ください。

http://www.lto.org/technology/ltfs-compliance.html (英文)


一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本アイ・ビー・エム (株) 石本 健志