オープンリールテープ時代のよもやま話
初期の磁気テープのトラブルシューティング手法
記録密度が250cpi程度までの記録については、「ビジマック」と称する磁粉を溶剤で溶いたものでテープ上に記録された状態を見ることができました。保守用のツールとして35mmポジフィルムに1キャラクターの正常な記録状態が記録されていて、記録されているテープを「ビジマック」に浸して溶剤が蒸発されると記録された部分が浮き出るので、このポジフィルムをテープに当てビット抜けや記録ズレなど見てトラブルシュートしたものです。「ビジマック」は、テープを保守するものにとっては重要なツールでした。
長寿命R/Wヘッドの出現
初期のR/Wヘッドは、アルミベースに7乃至9トラックの磁気コアーが埋め込まれ、テープの走行や起動・停止によってテープがR/Wヘッド表面から浮き上がらないようにテープラップアングルを大きくしてR/Wヘッド頂点に10g程度の圧力を掛けた構造でした。しかし、わずか10g程度の圧力でもテープが数10 ipsでR/Wヘッドの上を接触走行するとR/Wヘッドの摩耗が激しく、6カ月程度の寿命しかなく、その上、R/Wヘッドの価格も100万円を超える状況で保守コストの負担が大きく改善が強く要望されていました。
その対策として、R/Wヘッド両側の直外側及び少し離れた外側に土手を設けてテープラップアングルがヘッド頂点に掛る圧力を限りなくゼロに近付ける構造(このR/Wヘッドをアウトリガー型と名付けた)のR/Wヘッドを開発したことによって寿命を数年に延ばすことができるようになりました。このアウトリガー部分は最初クロムメッキとしましたが、最終的にはセラミックコーティングとなり、テープ走行系一生の間、用いられるようになりました。
こぼれ話:
R/Wヘッドの寿命について調査しているとき、テープスピードが速くなるほどR/Wヘッドの摩耗が少なくなっていることが分りました。(常識的には、テープスピードが速くなるほど摩耗が激しくなると考えていた。)。即ち、テープスピードが増すとテープがR/Wヘッドから浮き上がるために摩耗が少なくなることが判明した次第です。一方、テープスピードの速い機種の記録再生の信頼性が低くなる原因とに関連していることが解明し、R/Wヘッドのテープが接触する部分の形状や材質、その粗さ等を改善することによって、この問題は解消することができました。
バキュームキャプスタンの出現
テープ駆動装置にシングルキャプスタンが用いられるようになって久しいが、初期のキャプスタンは、キャプスタンの表面にコルクが張り付けられたものでした。テープ走行速度や記録密度が上昇してくるとR/Wヘッドへの記録再生の指令によってテープの起動・停止を細かく制御する必要性が出てきました。そこで、この仕様を満たすためにキャプスタンの幅方向縦に細かな吸引スロットを設け吸引する「バキュームキャプスタン」が開発されたことによって、磁気テープの高速、高密度化ができるようになりました。
以上
(社)電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
大石 完一
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