JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会コラム「2008年度委員会活動報告」
2008年度、当委員会では以下の4つのサブワーキンググループ(以下SWG)を設立して、それぞれのテーマ毎に活動をしてきました、
- 標準化SWG
- グリーンストレージSWG
- 媒体SWG
- 啓蒙SWG
以下、各SWGの活動報告を簡単に説明します。 尚、前年度の継続活動である、JIS原案作成委員会についても最後に紹介します。
【標準化SWG】
ここでのテーマは「長期保存フォーマットの標準化」と「暗号鍵管理標準化」の2つです。「長期保存フォーマットの標準化」はデジタルデータを如何に長期に保存するかということをテーマにしており、それを実現するために最適なフォーマットを策定していきます。
例えば映画の作成工程では、実際の画像「コンテンツ」とそれが誰によっていつ撮られたかなどの情報である「メタデータ」が独立して存在しますが、それを如何に紐付けした状態(オブジェクト形式)で保存するか、またそれをハードウェアやファイルシステムの更新を超えて保存し続けるにはどうすればいいか、といったことを考慮して検討をしています。 前年度は、デジタルデータの長期保存について、課題の抽出、OAIS等既存のモデル・規格などの調査を行いました。今年度は調査結果を踏まえて、具体的なフォーマットを策定することを目標にしています。
もうひとつのテーマである「暗号鍵管理標準化」は、データ暗号化技術で使用される暗号鍵の管理方法の共通化を目的とする活動です。暗号化は簡単にコピーできてしまうデジタルデータの情報漏洩の危険性を飛躍的に低減できますが、一方鍵をなくせばデータも読めなくなるというリスクも伴います。つまり鍵の管理が非常に重要になってくるわけです。 ところが現段階では、暗号鍵管理に関して国際的な標準を策定しようとする活動が色々と見られますが、まだ共通化に至っていません。
異なる暗号システム同士の鍵の受け渡しを可能にしたり、共通の方法で保管ポリシー等を適用したりできるようにすることは、暗号化されたデータを長期間保管するためには必須な技術といえます。昨年度は、現状の暗号化の運用・利用形態の調査、並びに国際標準の動向についても調査しました。今年度は、磁気テープを使った暗号化の優位性を整理し、暗号鍵管理のガイドラインを策定することを目標にしています。また、引き続いて国際標準の動向の調査を行います。
【グリーンストレージSWG】
このSWGでは、省エネ効果の高いストレージシステムとして、磁気テープ関連機器の利用方法の提案、およびその効果を定量的に示すための指標作りを行います。 省エネ効果の比較を行う際に、定量的に正確に比較できる指標があるかというと、残念ながら現時点では精度の高い測定方法は確立されていないのが現状です。
一般には、単純にそれぞれの機器の最大電力等を用いたりすることが多いのですが、もちろん機器が四六時中、最大負荷状態で動作しているわけではないので、その試算値は実際の運用時のエネルギー消費量と同じになることはまず無いでしょう。そこでより実際の動作状況に即した消費電力の測定方法、つまり自動車業界での10モード燃費のようなものが必要になるわけです。
既に米国では、コンシューマー系からEnergy Starという規格が適用されており、今後はサーバー等エンタープライズ機器にも適用が始まりますが、将来的にはエンタープライズストレージにも波及する可能性はあります。既に米国SNIAでは測定基準の策定に向けて動き出しており、その動きも見据えながら今後の活動を行っていきます。
昨年度は最初のステップとして、5年分のEメールのアーカイブモデルを想定し、そのアーカイブデータをディスクシステムからテープシステムに保存することによって削減できるCO2の年間排出量を試算し、最大で1/30程度に削減できるという結果を得ました。 今後はより客観的で正確な結果を得るためのパラメータを抽出し、比較の指標とその算出方法を検討することが課題です。
【媒体SWG】
既に言及してきましたように、テープメディアは長期保管には最適なメディアなのですが、実は具体的に保管寿命を推定したデータはありませんでした。そこでこのSWGでは現在のデファクトスタンダードであるLTOメディアを使用し、寿命を推定するための加速試験を実施しました。 温度55℃湿度80%RHに160日間保存しても、結果としてエラーレートの劣化が無いことが確認されました。これは、温度25℃で保管した場合、約19年の寿命推定となります。 つまり長期保管にテープメディアは適していることが再確認されたわけです。
長期保管のみならず、可搬媒体であることから、災害復旧、セキュリティ対策に最適なテープメディアですが、不適切な取り扱いでそのメリットを台無しにするのはもったいないことです。 そこで昨年度はより有効にテープメディアを活用していただくために、「データテープカートリジの取り扱い注意」を作成しました。 テープメディアベンダー全社が共同で作成し、非常にわかりやすいパンフレット形式に仕上がっています。 この資料は、当委員会のホームページからダウンロード可能です。
【啓蒙SWG】 最後にこのSWGはテープストレージのメリットおよび、当委員会の活動を多くの人々に知ってもらい、さらに有効に活用してもらうことを目的として活動してます。 昨年度は、以下の活動を行いました。
- JDSFのメルマガへの寄稿
- 啓蒙資料の作成/アップデートを当委員会のホームページに公開
- 展示会、パネルセッションへの参加
- CEATEC講演等
- 各種メディアの取材
今後は上記活動を継続しつつ、当委員会のホームページのリニューアル、最新テープ技術報告書の作成等を行っていく予定です。
【JIS原案作成委員会】
国内でデータ交換用磁気テープとして使用されているCMT装置の生産が終息しつつあるため、代替えテープへのデータ移行が必要になってきています。 昨年度はデータ交換用磁気テープ として日本国内で広く利用されているSLラベル形式(EBCDICコードで表現するラベル形式)を、 既存のデータ交換用磁気テープの規格(JIS X0601)に追加する変更を行いました。 今後JIS原案を日本規格協会に提出しJIS化を進めます。
資料は、以下のURLからアクセスできます。
http://home.jeita.or.jp/is/committee/tech-std/std/com02.html
・データテープメディア寿命評価(PDF) (2009年1月修正)
・データテープカートリッジの取り扱い注意(PDF) (2009年2月作成)
・講演会資料および過去の資料 講演会で使用した資料等を掲示しています。
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
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