耳寄り資料室

これからのデータセンターで考えること

シスコシステムズ合同会社
井村 直哉

この度、縁があって3ヶ月にわたりメールマガジンを書くことになった。特に今後のデータセンターにおけるトレンドや活用方、考慮すべき点などを紹介していきたい。

現在、仕事上よく様々な顧客やパートナーの方々とお会いしてお話しする機会が多いのだが、このストレージネットワーキング技術部会でも何度か取り上げられているFCoE(Fibre Channel over Ethernet)について知られている方々が増えていることを実感する。私自身も今後の注目すべきアーキテクチャやテクノロジのエバンジェリストとしてセミナーや顧客先において話す機会も多いのだが、すでに今までのようなFC-SANではなく、これからはFCoEだと断言する方がいらっしゃることには少々驚く。実装時の考慮点をよく理解する必要があるのだが。FCoEは今後期待されるテクノロジであり、広く知っていただく必要があるのだが、今までもこの部会で取り上げられてきているので、今回はその技術を深くは語らないことにする。

FCoEを実際に使うために準備するものとしては、まず最初に頭に浮かぶのがFCoEをサポートするスイッチを思い浮かべる方が多いのではないかと思う。しかし、実際にデータセンターでFCoEを使用した構成を組むためにはスイッチだけではダメなのである。そこで今回は、FCoE対応ネットワークスイッチ以外に必須のコンポーネントであり、名わき役であるケーブル、アダプターについてお話したい。

まず最初にケーブルだが、「ケーブルってそんなに重要なの?」と思われる諸氏もいらっしゃるかもしれないが、実際にデータセンター内でシステムを組み上げる方々、メンテナンスをする方々にとっては、とても苦労されるものでもある。ネットワークのケーブルとして、まず思い浮かべられるのがNIC(Network Interface Card)に挿入されているRJ45のコネクタが付いた1000BASE-T、100BASE-TなどのEthernet用ケーブル、そしてこのマガジンを読まれる方々に多いであろうHBA(Host Bus Adapter)に挿入されているFibreケーブルがある。FCoEを使用するには、現在10GbEが前提となるため、10Gbitをサポートするカテゴリ6a、カテゴリ7規格の10GBASE-Tケーブルがある。皆様方のオフィスあるいはご家庭においても1000BASE-Tのカテゴリ5eなどのケーブルを使用されていて目にするのではないかと思う。それらを手にとって判るように決してやわらかいものではないのである。このケーブルをたくさんラック内で取り回すためには苦労のいる仕事になることが想像できる。また、消費電力がポートあたり4W~8Wあり、遅延が1.5μs~2.5μsある。カテゴリ5eのケーブルと同様に100mの距離まで伸ばせるというメリットはあるが、エコではなく遅延や取り回しやすさを考えると、FCoE用としては、とてもとてもとなるのである。

現在、ラック内ではEtherネットワーク用、SAN接続用のケーブルが所狭しと配線されているのであるが、最近のブレードサーバ人気に始まりラック内への集積度がますます増え、高温化が進み、効果的に排熱する必要がある。しかし、ケーブル数が多いと各装置のファンから排熱された暖気をラック外に逃がす経路を塞がないようにするために、かなり苦労されている話もよく耳にする。そのためには、10GbE、FCoE を活用したユニファイドファブリックにより、ケーブル数を減らすことには大きなメリットがある。

そうなればケーブルはFibreとなるのだが、なにせ高価であることは否めない。今ではFibreケーブルも一般的となってきて、消費電力1Wでエコであり、遅延もほとんど無しとくれば、利用すべきではあるが、やはり高価なのである。FCoEをサポートするスイッチにすべてオプティカル・トランシーバを挿してFibreケーブルを接続する。サーバへ装着するアダプター側もオプティカル・トランシーバを持ったものとしなければならないので、FCoE対応スイッチのベース価格の2倍~3倍以上の出費が必要となる。

そこで登場してきたのがTwinaxケーブルである。Twinaxと呼ばれるケーブルは以前からあるのだが、ここでは10Gbit伝送で用いられる10GBASE SFP+モジュールが付いたものを紹介する。このケーブルは銅のより対線で6mmの太さで非常に柔軟性がある。現在の仕様上、10mの長さまでしか対応していないがラック内や数ラック以内であれば楽に取り回しができるのである。さらなる利点として消費電力がポートあたり、0.1W以下(オプティカルの10分の1)であり、遅延もFibreには勝らないが01μs以下という低さである。 ましてや一番のメリットは、上記の仕様で価格がリーズナブルであることである。このケーブルには、両端にSFP+のコネクタは最初から付いており、スイッチ上、またはアダプターのSFP+空きポートにトランシーバ無しにそのまま挿すだけなのである。実際にTwinaxで構成した場合、すべてをオプティカルで構成した場合と比べ、オプティカル・トランシーバの有無がかなり影響し、ケーブル部分の費用は、約8分の1程度で済むのである。つまり前述の2倍~3倍に膨れ上がる出費が抑えられるのである。

10GbEは2009年以降、普及が加速されていくだろう。それはその翌年にも規格が決まる40GbE、100GbEがすぐ目の前に来ており、対応製品も出てくる。そうなると10GbE製品の価格もこなれてくると予想ができる。日本でも、いよいよFCoEのプロダクションシステムへの導入が来年より始まる。今後のデータセンターのラックの中をのぞくと、エコでリーズナブルな6mmの黒いケーブルでサーバ、スイッチが繋がれている光景を目にする機会も増えていくことであろう。

次回は、今回紹介できなかったアダプターの今後についてである。