耳寄り資料室

第1回 【連載】より高速に、より広く、より多様に ~ 変化はプロトコルから ~

SAN(Storage Area Network)という言葉はもはや"新しい言葉"、 "初めて聞く言葉"ではないと思います。ここ2~3年でSANという言葉は急速 に普及し、さすがにコンシューマ市場ではまだまだですが、IT 関連市場に 関わっている方は聞いたり、目にしたりする機会が増えてきたと思います。 ただ SAN という言葉を見たり聞いたりしたことがあっても、その意味する ところを良く知っている方は多くないと思いますし、SAN の意味するものも 急速に多様化し、あいまいになってきています。 ちょうど LAN という言葉の意味するものがハードウエア、ソフトウエアから サービス、環境そして概念的なものまで含んでいるのと同じです。

では、SAN は今後 LAN のように多くの分野に広がっていくのでしょうか? さすがに現在の LAN 程広まるかどうかは議論のあるところですが、少なく とも SAN が今後しりつぼみになって忘れ去られてしまう、ということは なさそうです。SANは普及期に入ったといって間違いなさそうです。 今後 SAN はより広い分野へ広がっていくと思われます。 このSAN の広がりを加速する要因はいったい何でしょうか? 様々な要因が考えられるのですが、実は使用されているプロトコル、そして その速度、バンド幅が大きな要因の一つになっているのです。 LAN では イーサネット(Ethernet) というプロトコルが下位にあり、その上 にIP (Internet Protocol) があります。 このイーサネットは最初は 10Mbps という速度でしたが、その後 100Mbps、 1Gbps そして今では 10Gbps まで速度を増加してきています。 この速度にあわせて市場が広がり、LAN を使用したアプリケーションも増え ています。ある技術が普及期に入ると、市場からより早い速度より複雑な 機能が要求されます。技術がこの要求以上の機能、性能を達成すると、この 性能、機能を用いた新たなアプリケーションが創出され、市場が広がります。 そこから新たな技術要求が起こり、技術は次の性能、機能を達成する… といった正の循環により新たな技術の開発とそれに伴う市場の広がりが得ら れるのです。SAN における主なプロトコルはファイバチャネルと呼ばれるもの です。ファイバチャネル以外にイーサネットも用いられていますが、 まだまだ普及しているとはいえません。 ファイバチャネルは米国規格協会(ANSI)により定められたプロトコルで、 現在はINCITS(Inter National Committee for Information Technology Standards) により開発、策定が行われています。

では、ファイバチャネルの速度はどのように推移してきたのでしょうか? ファイバチャネルはもともと 1Gbps の速度でしたが、初めて実際に製品が 出荷された時にはクワッド・レート(1Gbpsの1/4の250Mbps) やハーフ・ レート(1Gbpsの 1/2 の 500Mbps) といった速度が使われていました。 また、この頃のアプリケーションは SAN ではなく、SANという考え方すら ありませんでしたが、IPネットワークで使用されていました。 この時にはイーサネットは 100Mbps しかなく、それ以上の速度でIPを扱 えるプロトコルとしてファイバチャネルが使われていました。 しかし、これも 1Gbps のイーサネットが開発されるまでで、 1Gbps イーサネットの普及とともに市場を失っていきました。ちょうど この頃にストレージ・インタフェースにファイバチャネルを使用する アプリケーションが現れ、これがファイバチャネルを普及させ、SAN へと 発展していったのです。 ストレージ・インタフェース、そして SAN という市場を得て、ファイバ チャネルというプロトコルは生き残り、発展しました。 市場はより高速なインタフェースを要求し、ファイバチャネル標準もそれに 対応しました。ファイバチャネルは、1Gbpsから2Gbps、4Gbps、10Gbps と その速度を増加してきています。これに伴い市場が拡大し、SAN という言葉 をよく耳にするようになったのです。
JDSF ファイバチャネル技術部会長
アジレント・テクノロジー株式会社 前田 明徳