●○ マヤ・ピラミッドの幻聴 ○●
MAIDをご存じだろうか?「お帰りなさいませご主人様」のMAIDではなく、Massive Arrays of Inactive Disksの略。数年前、省電力の切り札として話題になったストレージ技術である。(「ディスクとテープのギャップを埋めるMAIDテクノロジ」参照)
このMAIDのメーカでCOPAN Systemsという名前の会社があった。(2010年2月SGIが買収)
COPANと聞くとこの会社名の由来にもなった、マヤのピラミッド遺跡を思い出す。ずいぶん昔、マヤの遺跡の中でCOPANと双璧と言われるTIKAL(ティカル)の遺跡に行ったことがある。
この遺跡を観光で訪れたときにあった他愛もないお話…
スペイン語圏では英語がほとんど通じない、と聞いていたため、携帯用の和西辞書を持って行った。総革装でそこそこの値段だった。ところがこれが結構なクセモノで、現地人にものを聞いても首をかしげられることがしばしば。このときもまさにそうしたシーンの一つだった。
ご存じのように、マヤでは神に生け贄を捧げていた。生きたままの人間の胸を切り裂き、心臓を取り出すという儀式である。
遺跡のガイドに、「ここでは何人くらいの人が生け贄になったのですか?」と聞こうとしたが、「生け贄」というスペイン語が出てこない。辞書を引くと「生け贄→犠牲」とあり、「犠牲」の項を引くと、、とある。そうか、生け贄はか、と納得してガイドに質問すると、少し怪訝そうな顔をしたあとで、
「そうさなあ、今までに一人か二人くらいかなあ、修復工事の時に。」
「工事???」
あまりスペイン語が話せなかったので、もやもや感はあったが会話はそれで終わった。
この不首尾に終わった会話の原因が、総革装和西小辞典にあると分かったのは旅行から帰り、だいぶスペイン語を勉強してからの事だ。
そう、は英語のvictim。戦争や犯罪の犠牲者、被害者を表すこともあるが、もっと普通に使われるのは、交通事故や台風などで死亡した人の意味。つまりガイドはという言葉を聞いた時点で、<事故>を連想した、という訳だ。生け贄、のことを聞くのなら、sacrificioと聞くべきだったのだ。辞書を編纂する人、それを使う人、くれぐれも<AはBを参照>というジャンプに潜む転意のマモノに気をつけよう!
いにしえに血腥い儀式が行われたピラミッドも、今はきれいに手入れされた芝生の上に蒼然と佇む。ピラミッドの頂上から四方を眺めると、地平線の彼方まで鬱蒼としたジャングル、深緑の海。ところどころ、海面から岩が出るように遺跡の頂上がつきだしている。
やや離れたところから製材所で材木を切る音がする。この密林の木を伐採して製材しているのだろうか。ピラミッドの上から見る限り、工場らしき建物はない。
遺跡を出てバス乗り場まで歩く途中、「製材所」の正体が分かった。
セミだ。
たった一匹だが、大阪で大量発生しているクマゼミより大きな音量。30mもあろうかという高木の梢で鳴いており、音はすれども姿は見えない。凄まじい電動鋸サウンドである。「岩にしみいる」ような風情は全くない。異国にいる事を実感した。
昨年は、マヤのカレンダーを題材にした「2012」という映画が作られた。古代マヤ文明の暦が終わる日、2012年12月23日に人類は滅亡する、というNightmare Fantasyだ。これから約2年、世界はどう変わっているだろうか。
天変地異は映画の中だけにして、遺跡とそれを包むジャングルの豊かな自然がいつまでも続くことを祈っている。
株式会社マトカテクノロジー
池田 c孝
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